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複合災害列島で危機対応のイノベーションを考える

2020.09.02

日本防災デザイン代表の志村邦彦です。

新型コロナウイルス(COVID-19)の感染者数は、最近は東京を中心に減少傾向にあるものの、各道府県の感染者数は増加しており、全国的には着実に広がりを見せています。

インシデント・コマンド・システム(ICS)の観点からすれば、熱波(※)による人体や農作物への影響もインシデントになりますので、コロナウイルス禍の日本列島はコンプレックス・インシデント(複合災害)状況下にあると言えます。

※熱波:広い範囲に4~5日またはそれ以上にわたって、相当に顕著な高温をもたらす現象(気象庁より)

非常に強い勢力を持つ台風10号の影響も懸念されます。今後の進路によっては、複合要素が一つ増えることも懸念されます。それだけでなく、今後は南海トラフ地震や首都直下型地震といった大型地震が、いつ発生してもおかしくない状況です。

今回は、このような甚大災害が重複して続く複合災害時代に、危機対応にどのようなイノベーションが求められるのかについて触れてみたいと思います。


株式会社日本防災デザイン 代表・志村邦彦
【プロフィール】2011年3月11日の東日本大震災を東京電力の執行役員として経験。災害時における効果的な組織体制づくりの必要性を認識し、当社を創業。

いま求められる3つのイノベーション

複合災害列島日本には、今、次の3つのイノベーションが求められているではないでしょうか。

1つ目は、「COVID-19そのものに対するイノベーション」
2つ目は、「COVID-19によってもたらされたニューノーマルに対応するイノベーション」
3つ目は、「日本の危機対応体制のイノベーション」

これらについて述べていきます。

1.COVID-19そのものに対するイノベーション

「人口の6-7割に免疫ができるまで大流行は続く」とか「今後2年間にわたり流行は再発を繰り返す可能性がある」との説もあります。それまでの間を、不作為でいたら、多くの命が失われてしまいます。

まずは、喫緊の課題として、人工知能を使った感染予測、診断開発、治療法開発や、治療薬やワクチンの開発といった、COVID-19に直接的に関わるイノベーションが求められています。

「自分達は、最先端のシステム、医療、製薬、防護素材等のメーカーや研究所でないので関係ない」と思われる向きもあろうかと存じます。この分野に関係がない業種にとっては、なかなか新たなビジネスチャンスとして手を出す機会はないかもしれません。

ただ、今回の中国のマスク輸出戦略でわかったように、医療関係物品は、武器と同様に国際的な「戦略物資」になりうる可能性をもっています。日本の安全保障の面からも、COVID-19にまつわるイノベーションの進展状況をウォッチしていく必要があると思います。

このような災害や健康をめぐる課題に対して、援助ではなく自国の利益を優先する国家主義的な排他傾向が、米国、中国だけでなく世界の国々で顕在化したのもCOVID-19が生み出した新たな影響のひとつかもしれません。

2.新しい社会・経済・ビジネス様式のニューノーマルに対応するイノベーション

通常の災害であれば、感染予防の観点から、人と人の接触を避け、テレワーク、オンライン会議等で凌いだあとは、再び「現状復旧」に戻るということになります。

しかし、このCOVID-19禍では、昔のとおりに生産体制やサプライチェーンを戻すことが正解ではありません。非効率な会議や打合せ、遠隔地からの通勤等が見直しの対象となったように、働き方や暮らしぶりに大きな変化が起き、それが定着し、不可逆的だとも言われます。

テレワーク、オンライン会議、オンライン教育だけでなくネットショッピングや電子政府など、デジタルトランスフォーメーションが加速化・常態化するとの説もあります。「今日のノーマルは、明日のノーマルではなく、常に変わり続ける」のかもしれません。テレワークやオンライン会議、オンライン教育やネットショッピングも、今のままが最善であるはずもなく、そのあり方も頻繁にバージョンアップしていくと思われます。その影響は、街の飲食店や商店街や大規模商業施設にまで現れています。

「新たな常態(ニューノーマル)」で静止することなく、「常に新技術や新システムの新結合が連続し続ける」イメージです。「災害からの立ち直りは、元に戻ることでなく、イノベーションに正面から取り組むこと」にあるとしたら、企業や組織にとっては厳しい時代になったのかもしれません。

もっとも、これまでも、「大災害の災難はどの組織にも、平等に降りかかる」と言われてきました。だから「本当に国民のために尽くす企業活動を行えば、結果として、ブランディング向上にもマーケットシェア拡大にも繋がる」というのが定説でした。

このコロナ禍は、自然災害のように局地的な影響にとどまらず、その影響は世界的に及びます。その経済面でのマイナス影響は甚大かつ深刻です。一方で、大きな社会変革期は、イノベーションを起こす、絶好のビジネスチャンスでもあります。イノベーションのキーワードは「オープン」とか「協力」とか「連携」であって、「自前主義」とか「排他傾向」とか「縦割り主義」とかではないはずです。

3.日本の危機対応体制のイノベーション

南海トラフ地震、首都直下地震の発生が予想されています。その復旧には膨大な時間がかかることは論を俟ちません。当然その間には、更なる地震、集中豪雨、台風、熱波、寒波、火山噴火も降りかかることが十分懸念されます。ほんとうに悲惨な複合災害状況になりかねません。

国難となれば、日本人の誰もが努力し、誰もが協力を惜しまないことは、想像に難くありません。なぜなら、誰もが「単独で自前主義で戦うより、オープンに協力・連携して組織として戦う方が効率的である」ことを知っているからです。しかし、そのために私たちは何をすべきかを知っているのでしょうか?

市民、ボランティア、企業の社員、自治体の職員、消防士、警察官、救助隊員、自衛隊員、政府関係者が、どのように連携し、連帯し、挙国一致で国難に臨むのでしょうか。

危機対応に大同団結するには

災害対策基本法や地域防災計画には、「国、自治体、区市町村、指定公共機関、事業者、国民等が協力すべきである」と書かれています。

しかし、上(国や自治体)の組織が作られただけでは、市民は動けません。

どのように草の根的に市民同士が協働し、地域レベルで組織化して、その組織同士が連携し、自治体や国の支援と連結するのか。そのような下からの主体的な取り組みや、ヨコの組織間での連携の方法論が、社会的なコンセンサスとして浸透していることが必要です。それを促進するシステム構築や教育推進の整備ができるかがポイントだと思います。

ほんとうに挙国一致で臨むとするならば、
①国民全体が危機対応に関する共通の行動様式を認識し
②取り組む目的と目標を共有し
③必要な情報がゆきわたり、共有されている

といったことが必要です。

荒唐無稽かもしれませんが、「どのような複合災害が起きても、一人の死者もださず、GDPも落とさない」というような高い目標を掲げ、この社会的ニーズを達成しようと少しでも考えてみれば、日本の危機対応の体制やそれを支える技術におけるイノベーションが必要であると認識するでしょうし、必ずイノベーションも生まれてくると信じます。

国家規模での連携指揮体制の確立

災害列島日本には、多くの知見が蓄積されてきました。災害予知、被害予想、住民周知、医療、避難所運営等のナレッジは世界に通じるものもあります。これらを基盤として新たな危機対応体制の「新結合(イノベーション)」が生まれることが、日本のレジリエンスを高め、危機対応をテーマとする産業の育成・発展に寄与するものと思います。

新たな危機対応体制の新結合は、国家規模での連携指揮体制(Unified Command)のシステムを確立することだと考えます。残念ながら、それをグローバルな観点から見れば、先進国の先頭集団から引き離されるどころか、かなり後方を単独で走っているのが複合災害列島日本の現実だと思います。

これから「防災立国日本」を少しでも目指そうとするなら、最先端の米国国家事態対処システム(NIMS)やインシデント・コマンド・システム(ICS)を学ぶことは必須です。ビジネスの世界でもイノベーションの成功は、差別化できるビジネスモデルやビジネスシステムの確立にあります。防災におけるイノベーションの成功も、成功事例を凌ぐ差別化モデルを戦略的かつ短期的かつ集中的に開発できるかどうかにあると考えます。

今回も最後までお読みいただきありがとうございました。

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【第10回】組織づくりの基本③:スパンオブコントロール

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【第14回】インシデント・コマンド・システムにおける目標設定

【第15回】計画(IAP:インシデントアクションプラン)を立てる

【第16回】事態対処部門(Operations Section)の役割・組織編成のやり方

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【第18回】災害対応の初動対応のあり方

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