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【第13回:日本一わかりやすいICS講座】組織づくりの基本6:指揮と調整の違いについて

2020.01.13

これまでの日本一わかりやすいICSのコラムの中で、「指揮」や「調整」ということばを何となく使ってきたのを覚えていますでしょうか?

何となく使ってきたこの2つの用語ですが、ICS(インシデントコマンドシステム)ではこの「指揮(Command)」と「調整(Coordination)」が、明確に切り分けて使われます。

今回は、指揮と調整の意味の違いについて改めて説明させていただきますね。

指揮(Command)とは

はじめに「指揮(Command)」ですが、米国の定義によれば、「法令、規制、指揮権の移譲に基づいて、指示・命令・統制をすること」とされていますが、軍、警察、公設消防、自治体等を主な対象としていますので、そのような記述になっていると思われます。

日本では、会社や地域社会であれば、「災害対応規程やマニュアル」など、「あらかじめ決められた約束に基づくリーダーからの指示」ということになろうかと思います。この辺が、日本の実情にあわせた「日本版ICSのあり方」というところでしょうか。

ところで、インシデント対応の最前線では、現場指揮者に指揮権が委ねられます。ICSでは、最前線の戦い方(戦術)は、現場指揮者の差配に委ねられます。だって、最前線にいる人たちが、それぞれ各自の好き勝手に動いていて、上手く行くはずがありませんよね。

また、緊急事態にみんなの合議制で決めるなどという余裕もありません。だから現場指揮官のリーダーシップを尊重し、それに皆が主体的に従いましょう、進んで結束しましょう、という取り決めがICSなのです。

「現場指揮官の迅速な意思決定による指揮(Command)に、参加者全員が一致団結して従う。」

そのことにより、事態の収拾が、はるかに効率的に行われることはお分かりいただけるかと思います。また、救う人・救われる人の命に関わるとなれば、英語のCommandに含まれる「命令」の意味合いを持つ指示に、しっかり従うことが必要となることもご理解いただけるかと思います。現場は指揮(Command)により動くのです。

指揮者は必ずしも一人ではない!指揮権が引き継がれることもある

繰り返しますが、現場第一線では、現場指揮官(Incident Commander)の指揮(Command)により全てが動くことになります。

とはいっても、一人の現場指揮者が、ずっと指揮するわけではありません。次のような場合は、指揮を移譲する(指揮権を引き渡す)ことになります。

  1. より的確な指揮者が到着した場合
  2. 法的により指揮することが求められる場合
  3. 現場指揮者が休養する場合

「より的確な指揮者」というのは、たとえば、交通事故で当面の対応をしていたところに、警察官が来れば、その方の指示に従います。また、「法令により」とは、災害対策基本法をはじめとする法令、条例により指揮者が決められていれば、その方に引き継ぐことになります。

現場指揮者の働き方改革

また、大切なのは、③の現場指揮者が休養する場合です。とかく、災害時には皆さんが頑張って時間の経つのも忘れて活動してしまいがちですが、それでは長期戦では、体力的にも精神的にも耐えられません。疲れ切った頭では、判断にミスが生じることも懸念されます。

8~12時間を一つのサイクルとして、現場指揮官も休養をとることが、効率的な災害対応には欠かせないことだと覚えていてくださいね。休むことは次なる戦いへの英気を養うとともに、絶対あきらめない気力も培います。

合理的に休むことは全く恥ずかしいことではありません!休まずに頑張り続けることのほうが、現場指揮官のリーダーとしての資質を問われかねません。休む時はちゃんと休みましょうね。

何を引き継いだらいいの?

現場指揮者が交代する際は、必ず、口頭、文書、または両方で、次の事項の引継ぎをします。

  • インシデントの経過
  • 対応目標と優先順位
  • 現在のプラン
  • 人員・資器材の配備状況
  • 対応組織図
  • コミュニケーション手段
  • 困難事項、安全配慮事項
  • インシデントの発展可能性

ずいぶんと項目があるので、全部は覚えきれませんよね。でも大丈夫です。ICSでは、各種フォーマットがあって、そのフォーマットに必要事項を埋め込んでいけば、引き継ぎ書は完成します。

第12回災害対策本部のところでも説明しましたが、ICSはこのフォーマットのような決め事がしっかり決まっているので、だから実践的(実戦的)なのです。

調整(Coordination)とは

次は「調整(Coordination)」についてご説明します。日本語で「調整」というと、なんとなく「角がたたずに上手く収まればよい」みたいなちょっと後ろ向きなニュアンスがありますよね。

ICSはまったく逆です。むしろ「調整」にはもっと積極的な意味合いがあります。米国の定義によると、調整とは「災害対応組織に対して、継続的な支援をするプロセス」を意味します。その役割を担うのは、現場指揮とはまったく別の「災害対策本部」になるのです。

前回(第12回 災害対策本部(EOC))でもお話したとおり、災害対策本部の「調整(Coordination)」とは、以下のようなことを意味します。

  • 情報の収集・集約、および情報の共有化(COP: 状況共有画面確立)
  • 情報の意味付け、および優先順位づけした目標・計画を策定
  • 適切な資源配分の実施
  • 上記を円滑に進めるための情報・通信手段の確保
  • 広報活動

読んでいただくと分かるのですが、本来の「調整」の意味とは違い、災害対策本部が担う調整業務は、とても能動的な動きですよね。

指揮と調整を担う人物は異なる

「指揮」と「調整」で担う役割はまったく異なります。そして、調整を担う災害対策本部が、現場指揮者(IC)に対して直接口出しをすることはできません。

ICSを学ぶとこの辺りは当たり前という認識になるのですが、現場では実際にそういう矛盾が起こっているのです。3.11が良い例です。

3.11の際、東京電力福島第一原子力発電所の吉田昌郎所長が、緊急災害対策室からの指示や問い合わせに、「ディスターブしないで下さい」と言った話は有名です。通常の職務における上位権限者が集まる災害対策本部が、往々にして指示してしまうことは、よくあります。

「事件は会議室で起きているのではない!現場で起きている!」

この言葉通り、現場最前線に立つ指揮者に戦術的な意思決定をまかせ、現場指揮者が活躍しやすいようにEOCが調整するというのが、ICSのリテラシーなのです。

日本一わかりやすいインシデント・コマンド・システムのコラム一覧

【第1回】インシデントコマンドシステムの概要・インシデントとは何か?

【第2回】オールハザードとは何か?

【第3回】インシデントの5タイプ

【第4回】インシデントが起きたら初めにやること①:まずは指揮者(Incident Commander)を決めよ

【第5回】インシデントが起きたら初めにやること②:被害状況を把握せよ

【第6回】インシデントが起きたら初めにやること③:「何はともあれ人命優先」が危機対応の最大原則

【第7回】インシデントが起きたら初めにやること④:メンバーのチェックイン、チェックアウト

【第8回】組織づくりの基本①:組織の機能の洗い出し

【第9回】組織づくりの基本②:モジュラー型組織

【第10回】組織づくりの基本③:スパンオブコントロール

【第11回】組織づくりの基本④:指揮命令系統の一本化

【第12回】組織づくりの基本⑤:災害対策本部(EOC)

【第13回】組織づくりの基本⑥:指揮と調整の違いについて

【第14回】インシデント・コマンド・システムにおける目標設定

【第15回】計画(IAP:インシデントアクションプラン)を立てる

【第16回】事態対処部門(Operations Section)の役割・組織編成のやり方

【第17回】現場指揮所と現場集結拠点を設置する

【第18回】災害対応の初動対応のあり方

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