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【第3回:日本一わかりやすいインシデントコマンドシステム】インシデントの5タイプ

2020.01.03
インシデントの5タイプ

この章では、インシデントの5タイプについて解説します。インシデントコマンドシステム(ICS)では、インシデントのタイプを規模によって5つのタイプに分類します。

オールハザードとして危機対応を行っていくことは、先の章でお話ししたとおりです。しかし、全ての災害にして個別に対応計画を立てていては途方もありません。台風、集中豪雨、地震、津波など、自然災害に加えてイベントを加えたら、インシデントはキリのない数になります。

インシデントの5つのタイプ

そこで、ICSでは規模に応じてインシデントを5つのタイプに分けています。下の図を見ていただいて、何となくイメージがつくのではないでしょうか?

インシデントの5タイプ

ここでいう規模とは、「事態を収束するために必要な人員数と時間」のことです。つまり、Type5→4→3→2→1の順に、インシデントの規模は大きくなっていくのです。

実は、災害の95%がType3〜5の範囲に収まると言われています。ICSのことを全く知らなくても、日本人はこれまで、95%に入る比較的小さな規模の災害ならば、経験的に乗り切るためのスキルを持っていて、歴史的にもそれでやってきたと思われます。ただ困ったことに、災害対応の知見が体系的に整理されていないので、災害対応を経験した人は知っているが、経験したことのない人は災害発生後に行うべきことの基礎知識もないということです。

そして、もっと肝心なのは、残り5%の大規模な災害にどう向き合うべきかという考え方について、日本人全体としても、よくわかっていないことです。

インシデントType5

Typ5は、5つのタイプの中でもっとも規模の小さいインシデントとなります。

どれくらいの規模かといいますと、6人以下で対応でき、現場に着いてから数時間で片がつくくらいのレベルです。

身近な例でいえば、車の衝突事故(物損事故のみ)などが該当しますね。事故の現場をイメージしてみてくださいね。まずは110番で警察に電話をかけますよね。数分後には現場にパトカーが到着します。パトカーから警察官が降りてきて、交通整理をやる一方で、当事者たちに事情聴取をします。

せいぜい数時間があれば、事故が起こる前の状態まで回復するはずです。

インシデントType4

警察官が数人いれば事態が収まるようなType5とは異なり、Type4はいくつかの部隊が同時に出動しなければならない状況です。

ビルの火災を思い浮かべてください。このとき、どんな登場人物がいますでしょうか?

  • 消火活動にあたる消防士
  • 捜索、救助、救出にあたる消防士
  • 負傷者の救護にあたる救急隊

パッと思い浮かべるだけでも3つの登場人物が出てきます。消火活動も一筋縄ではいきません。ICSでは事態の収束に8〜12時間かかるものをType4に分類していますが、ビルの火災も概ねそれくらいの時間はかかるのではないでしょうか?

インシデントType3

Type3の規模のインシデントになると、初動対応だけで事態を収めるのが難しいくらいのレベルになります。つまり、消防隊や救急隊がいちど出動したくらいではどうにもならない規模の災害が、このType3に該当するのです。

たとえば、2005年に福知山線の脱線事故がありました。電車の先頭2両が近くの分譲マンションのなかに激突するほどの事故でした。消防、救急、警察だけでなく、民間も巻き込んだ大規模な救助活動となりました。
ご案内のとおり、人命の救助活動が終わった段階で事態が収まったわけではありません。マンションのなかに突っ込んだ車両を撤去して、マンションの住人が元どおりに暮らせるようになるまで、相当の時間を費やしました。お亡くなりになった方々の慰霊は、今もこれからも続けられます。
ここまでの規模のインシデントになりますと、ICSでは事態収束に向けての活動計画(IAP: Incident Aciton Plan)の周到な作成と復旧にむけたPDCAサイクルを何回もまわすことが必要になります。(IAPの詳細は、別のタイミングで詳しくお話しいたしますね)

先述のように、全体の95%にあたるType3〜5までのインシデントには、我々日本人は対応するための経験値が備わっているものとされてきています。しかし、問題なのは、残りの5%のインシデント(後述するType1, 2)に対しては、手に負えなくなり、対応も後手に回ってしまったという事実です。

インシデントType1, 2

Type1, 2の規模になると、一つの都道府県や市町村だけで対応できるようなレベルではありません。それこそ、国を巻き込んだ対応が必要になるものです。

ひとつの目安として、対応にあたる全ICS組織の人数が最大500名規模になるような事案を想像してみてください。

皆さんがこれを聞いて、どんなインシデントをイメージするでしょうか?

おそらく、ほとんどの方が、2011年に起きた東日本大震災、福島第一原発の事故をイメージするでしょう。福島第一原発にいたっては、いまだに事態が収束していません。

これから10年以内くらいに、東日本大震災を上回る規模の「南海トラフ地震」が起こるという予測になっています。これほどの規模のインシデントが起こったときに、瞬時に事態の収束に向けて動けるだけの対応力を、いまの日本人が持ち合わせているでしょうか?

そのための解決策として、私たち日本防災デザインは、ICS(インシデント・コマンド・システム)を提案しております。

文責: 志村邦彦

ご質問・お問合せ:shimura©jerd.co.jp  (©を@マークに変えて送信ください)

日本一わかりやすいインシデント・コマンド・システムのコラム一覧

【第1回】インシデントコマンドシステムの概要・インシデントとは何か?

【第2回】オールハザードとは何か?

【第3回】インシデントの5タイプ

【第4回】インシデントが起きたら初めにやること①:まずは指揮者(Incident Commander)を決めよ

【第5回】インシデントが起きたら初めにやること②:被害状況を把握せよ

【第6回】インシデントが起きたら初めにやること③:「何はともあれ人命優先」が危機対応の最大原則

【第7回】インシデントが起きたら初めにやること④:メンバーのチェックイン、チェックアウト

【第8回】組織づくりの基本①:組織の機能の洗い出し

【第9回】組織づくりの基本②:モジュラー型組織

【第10回】組織づくりの基本③:スパンオブコントロール

【第11回】組織づくりの基本④:指揮命令系統の一本化

【第12回】組織づくりの基本⑤:災害対策本部(EOC)

【第13回】組織づくりの基本⑥:指揮と調整の違いについて

【第14回】インシデント・コマンド・システムにおける目標設定

【第15回】計画(IAP:インシデントアクションプラン)を立てる

【第16回】事態対処部門(Operations Section)の役割・組織編成のやり方

【第17回】現場指揮所と現場集結拠点を設置する

【第18回】災害対応の初動対応のあり方

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