この講座も第18回を迎えました。
これまでにICS(インシデントコマンドシステム)の大切な話題をかなり出してきました。
一度、これまでのお話を整理させていただきます。
「なすすべがなかった」のか「なすすべを知らなかったのか」
3.11東日本大震災のような大規模な災害に見舞われると、
「なすすべもなかった」という考えに至る方も多いのではないでしょうか?
実際に、災害対応に当たられた方々から以下のようなご意見が寄せられました。
- 何が必要な行動なのか、何をすべきなのかが分からなかった。
- 地震から原発事故になり、状況がわかず何をすればよいか分からなかった。
- 現場情報が正確に上がってこない。
- 組織決定事項が伝わってこない。
- 被害範囲が広くてどこに何をしに行けばよいか判断できなかった。
- 全体を考える事無く自分の周囲の事しか目に入らなかった。
数々の悲劇を目前にして、ほんとうに途方に暮れていた様子が浮かびます。
当社も東日本大震災の経験がなければ、創業されています。
あの時に、なすすべもなく組織がどうすることもできないものかしさから
これらの災害や危機に対して、立ち上がる術がないかと考える中で、
インシデントコマンドシステムが有効ではないかと創業に至りました。
ICSとは、災害対応時の効率的な組織編成であり、合理的な戦術の展開です。それは、まさに「災害に対する人間の戦い」なのです。
甚大災害のように、(場合によっては、企業経営や個々人の人生においても)
「思いもよらぬことから、突然、劣勢に追い込まれる」ことはあります。
その時に、「なすすべもなく茫然自失する」のか、どんな絶望やどんな悲しみの中でも、
粛々と坦々と、「なすべきこと実施して」、少しでも被害拡大を阻止し、
少しでも多くの命を救うことに尽力するのかが問われているのです。
上記の意見を出された方々が、もしICSを知っていれば、自分の力で立ち上がり、迷うことなく、
「なすべきこと」に着手していたのではないかと思います。
人のために尽くすことで、自分が救われることだってありますよね。
仲間と使命を共有し、協同して成し遂げるとこで、心が晴れることだってありますよね。
「なすすべがなかった」のではなく、個人のレベルでも、企業のレベルでも、
自治体のレベルでも、国のレベルでも、その当時は「なすすべを知らなかった」のではないでしょうか。
そして、今また、南海トラフ地震や首都直下地震の発生が危惧されています。
その時までに日本人は「なすすべを学んでいる」のでしょうか。
読者の皆様は、甚大災害が発生した時に、もし、何をしていいのか迷いがあったら、
このコラムのこと、つまりICSのことを思い出してください。
ご案内のとおり、皆さんがインシデントを「覚知」したときから、
それを望むと望まずに限らず、「なすべきことの物語」は、もう始まっているのです。
では、この講座でこれまでお話してきた、「なすべきこと」を振りかえってみましょう。
災害が起きた後に「なすべきこと」
これまでお話してきたことを要約すると次のようなことになります。
①リーダー(現場指揮者)を決めること
安全管理や、効率的な災害対応をするために、まずは、現場指揮者を決めることが大切です。
現場指揮者には、誰でもなれて、そしてより的確な人が来たら、引き継ぐこともご理解いただきました。
【第4回:日本一わかりやすいICS講座】インシデントが起きたら初めにやること①:まずは指揮者(Incident Commander)を決めよ
②サイズアップ(現状確認)する
現場指揮官が最初にやるべきことはサイズアップ(現状確認)でした。
被害状況に応じた具体的な目標設定、戦略、戦術の展開のためには「現状の正確な状況」と「被害拡大の推測」は必須事項でしたよね。そのことで後からくる消防や警察の方々に的確に現場指揮を委ねることができるのです。
【第5回:日本一わかりやすいICS講座】インシデントが起きたら初めにやること②:被害状況を把握せよ
③必要な機能を洗い出し組織を拡張する
その時に注意すべき点が「モジュラー型組織編成」であり「スパンオブコントロール」であり「指揮命令系統の一本化」でしたよね。
【第8回:日本一わかりやすいICS講座】組織づくりの基本①:組織の機能の洗い出し
【第9回:日本一わかりやすいICS講座】組織づくりの基本②:モジュラー型組織
【第10回:日本一わかりやすいICS講座】組織づくりの基本③:スパンオブコントロール
【第11回:日本一わかりやすいICS講座】組織づくりの基本④:指揮命令系統の一本化
④参加者の約束(チェックイン、チェックアウト)
参加する人が多くなったら、安全確保や効率的な指揮のために、現状の人員掌握をすることになっていました。
【第7回:日本一わかりやすいICS講座】インシデントが起きたら初めにやること④:メンバーのチェックイン、チェックアウト
⑤災害対策本部(EOC)を立ち上げる
災害の規模に応じて、災害対策本部を立ち上げます。その際には「3つの機能」と「3つの道具立て」を認識し、標準運営基準(SOP)で会議体のプロトコルを決めて、全体としてPlanning Pをまわすことになっていました。
【第12回:日本一わかりやすいICS講座】組織づくりの基本⑤:災害対策本部(EOC)
⑥指揮と調整の違いを認識する
指揮の定義や調整の定義をご説明しました。同時に現場指揮者の役割と災害対策本部の役割にも触れています。
【第13回:日本一わかりやすいICS講座】組織づくりの基本➅:指揮と調整の違いについて
⑦全体目標を設定する
参加者の意識合わせのために、目標と現状の差異を認識して、新たな方向性をきめるためには、目標の設定がたいせつで、目標設定のポイントもご説明しました。
【第14回:日本一わかりやすいICS講座】ICSにおける目標設定
⑧計画(IAP)を立てる
IAPとは、そもそもどんなもので、誰がどのように立てるのか、立てた計画はどのように配信(配布)されるかをご説明しました。
【第15回:日本一わかりやすいICS講座】計画(IAP:インシデントアクションプラン)を立てる
⑨事態対処部門(Operations Section)の機能
災害の対応は、対策本部でも広報船部門でもなく、この事態対処部門であるので、この最前線で戦う事態対処部門の組織編制が大切であることをご説明しました。
【第16回:日本一わかりやすいICS講座】事態対処部門(Operations Section)の役割・組織編成のやり方
⑩現場指揮所と現場集結拠点を設置する
最前線で戦う事態対処部門については、その力を十分発揮できるような機能を設置してあげることが必要なわけで、その観点から現場指揮所、現場集結拠点をはじめとする必要な現場機能についてご説明しました。
【第17回:日本一わかりやすいICS講座】現場指揮所と現場集結拠点を設置する
ここまで、ずいぶん多くのことを学んできました。
最初にICS(インシデントコマンドシステム)という言葉を耳にしたときより、ずいぶんイメージがかわったのではないでしょうか?
ICSは身近などんな小さな組織にも当てはめられる「優れもの」であることをご理解いただければ幸いです。
ICSについて、まだまだお話したいことは、たくさんあります。ひきつづきのアクセスを、どうぞよろしくお願いいたします。
文責: 志村邦彦
ご質問・お問合せ:shimura©jerd.co.jp (©を@マークに変えて送信ください)
日本一わかりやすいインシデント・コマンド・システムのコラム一覧
【第1回】インシデントコマンドシステムの概要・インシデントとは何か?
【第4回】インシデントが起きたら初めにやること①:まずは指揮者(Incident Commander)を決めよ
【第5回】インシデントが起きたら初めにやること②:被害状況を把握せよ
【第6回】インシデントが起きたら初めにやること③:「何はともあれ人命優先」が危機対応の最大原則
【第7回】インシデントが起きたら初めにやること④:メンバーのチェックイン、チェックアウト
【第14回】インシデント・コマンド・システムにおける目標設定
【第15回】計画(IAP:インシデントアクションプラン)を立てる
【第16回】事態対処部門(Operations Section)の役割・組織編成のやり方
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