【第4回:日本一わかりやすいインシデントコマンドシステム】インシデントが起きたら初めにやること①:まずは指揮者(Incident Commander)を決めよ
2020.01.04前章までで「インシデントとは何か」について詳しくお話してきました。インシデントが起きたら、まずは現場の指揮者(Incident Commander)を決めることが先決となります。まぁ「指揮者を決めろ」とかいきなり言われても、何のことだかさっぱり分かりませんよね。
- なぜはじめに指揮者を決める必要があるのか?
- どんな場面で指揮者が求められるのか?
- どんな人物が指揮者に当たればよいのか?
今回はインシデントが起きた直後の最優先タスクとなる「指揮者(Incident Commander)を決める」についてお話ししたいと思います。
なぜはじめに指揮者を決める必要があるのか?
肝心なのは、インシデントが実際に起こってからの対応の流れです。先述の通り、ICS(インシデント・コマンド・システム)はすべての災害「オールハザード」に対して適用できる標準化されたシステムです。
ICS(インシデント・コマンド・システム)という名前の通り、インシデントが起きた際にはじめにすべきことは、現場で災害対応に当たる指揮官((Incident Commander)を決めることです。
ICSでは、「指揮命令系統の確立」ということを重視します。これは、誰が誰に対して指揮命令をとるのかを明確にすることです。
「指揮命令」というと、軍隊やお役所組織みたいで窮屈そうに感じる方もいらっしゃるかと思います。ビジネスやプライベートの場では、そんなことばに縛られず、もっと柔軟に「誰が誰に指示するか決めておく」くらいでもよいのかもしれませんね。
しかし、災害という生命が脅かされる事態において、命令系統が確立されていなかったらどうなると思いますか?例えば、皆さんが会社で働いている最中に大震災が遭ったとイメージしてください。直属上司の課長さんからは「津波が来ているから、今すぐ逃げろ!」と言われているのに、お隣の部の部長さんから「うちの部にけが人出てるので面倒を見てくれ、たのむ!」と言われたらどうなりますか?迷いますよね。ほんとうに混乱しますよね。
そうやって混乱しているうちに地震の第二波がきて建物が倒壊したり、津波がきて巻き込まれてしまったりするかもしれません。災害という一分一秒も無駄にできない場面では、一人ひとりが混乱して迷っているより、早く自分のリーダーはだれかということを認識し、上司と部下が指揮命令系統を確立し、一致団結して合理的な行動をすることが、多くの命を救うために欠かせないことなのです。
災害時に上に立って指示するひとの呼称は、リーダ、チーフ、管理者、指導者、班長、組長、上司、所長等々いろいろ考えられますが、ここでは、あえて「指揮者」としているは、「指揮命令系統の確立」を、上に立つ方も下につく方も強く意識してもらいたいからです。
先ほどの大震災の例でも、あなたは、現場に留まるより、直属上司の指揮命令どおり逃げて助かり、安全が確認できてから、必要な物資を携帯してお隣の部の方々の救出やケガの手当に向かうほうが合理的ですよね。
でも、実際、災害時には、指揮命令系統をかき乱す混乱や横やりなどがあって、合理的な判断や効率的な災害対応が阻まれることが多いのです。
ですので、ICSの組織編制に関する重要な原則として、「指揮命令系統の一本化」ということがありますが、それについては、後ほどの【第11回】組織づくりの基本➃:指揮命令系統の一本化 で詳しくご説明いたします。
指揮者はどのような場面で求められるか?
この記事を読まれている皆さんはいま、どんな立場にあるでしょうか?
もしかしたら、どこかの組織で災害対応のプロとして活動されている方かもしれませんし、会社の中で役職付きの方かもしれません。ひょっとすると、ご家庭をまもる主婦の方もいらっしゃるかもしれません。
ちょっと意外かもしれませんが、ICSにおいてはどんな立場の方であっても災害の現場では指揮者になり得るのです。そして、災害の現場に2人以上の当事者がいらっしゃるならば、どちらかお一人が指揮官となり、もうおひとりを指揮する立場になるのです。
例えば、皆さんが親御さんと同居されている主婦(あるいは主夫)だったとしましょう。お義母さまと二人で家にいるときに地震が来たとします。その場でボーッとしていたら命が危うい状況です。その場合には、皆さん自身が指揮官となり、お義母さまの命も守れるように明確に現場の指揮をとらなければなりません。
もう一度、おさらいさせていただきますね。
- 災害の現場では、誰もが指揮者になりうる
- 災害の現場に2人以上いたら、誰か1人が指揮者になる
ちょっと重苦しく感じましたか?
しかし、ICSの発祥元のアメリカでは、60年以上前からICSを国全体で定着させてきたことで、大規模な災害があっても被害を最小限に食い止めているのです。日本では、福島第一原発の事故以降に、わずかながらにICSが国内にも広まりましたが、知らない人の方がまだまだ大多数でしょう。
聞きなれない新しい考え方ですので、すぐになじまないかもしれませんが、興味が少しでもあれば一緒に学んでいただければと思います。必ず何らかのお役には立ちますので。
もちろん、災害が終わるまでずっと指揮者として振る舞えと言っているわけではありません。他にも指揮者として適任者が現れたならば、指揮権限をその人に譲ることになります(「権限移譲のルール化」と言いますが、詳細は別の章で説明します)
どんな人物が指揮者として適任か?
「災害の現場では誰もが指揮者になり得る」とはいうものの、いきなり指揮者になっても何すれば良いの?という感じですよね。皆さんの疑問はもっともです。
正直に申し上げるならば、いま災害が起きたとしても、皆さんは指揮者として任務を全うすることは難しいかもしれませんね。これからICSを学ぶのですから。
でも、仮に、ご近所で、小学生が乗る自転車とお年寄りが衝突して、二人とも倒れていたとします。すぐに、付近の人たちが集まってきて、お年寄りや子供のけがを調べ、自転車を道の隅に移動して、必要ならば救急車や警察を呼びます。その時に役割分担を指示する人がでてくると思いますが、その方が、自然発生的な「指揮者」なのです。指揮者にはだれでもがなれます。
本来ならば、ICSの教育を受け、指揮者の訓練を受けた人が適切ですが、そのような人がいなければ、まずは、そこにいた人の中から適する人が指揮者になり、その後ICSを知っている人が現れれば、その人に指揮者を交代し、その後に救急や医療に関係する人が出てくればその人に指揮者を交代します。そのうちに救急車が到着すれば、救急隊員に指揮者を引き継ぐことになります。
より適切な人が来たら指揮者は代わっていく原則
だれが指揮者として適切かというなら、災害対応の教育(ICS)を受けた人、実際に災害対応の経験がある人、救急救命の知識・経験のある人、医療関係者、消防・警察・自衛隊の救助関係者など知識や経験のある人です。でも、もう一つ大切なことは、その方々の間で、その時々に、誰が一番適切な指揮者であるかを判断して、その方に指揮権を引き継いで(移譲)いくのがICSのやり方です。
インシデントの内容に対して、専門知識・技術・経験の観点から、その時点で、最も適切な人が「指揮者」になり、合理的な判断と効率的な組織運営をするというのがICSの原則です。
ICS発祥元の米国では、FEMA(連邦危機管理庁)という政府傘下の機関が、ICSの普及啓発を行っています。初級コースにいたっては、Web上でオンラインプログラムを受講することも可能です。もし興味がございましたら、ぜひFEMAのプログラムを受けてみてください。
私たち日本防災デザイン(JERD)は、日本国内で唯一、ICSを組織に取り入れるための研修、コンサルを行っている企業です。2015年に設立してから、多くの企業様で研修等をやらせていただきました。詳細は会社概要のページからご覧ください。
文責: 志村邦彦
ご質問・お問合せ:shimura©jerd.co.jp (©を@マークに変えて送信ください)
日本一わかりやすいインシデント・コマンド・システムのコラム一覧
【第1回】インシデントコマンドシステムの概要・インシデントとは何か?
【第4回】インシデントが起きたら初めにやること①:まずは指揮者(Incident Commander)を決めよ
【第5回】インシデントが起きたら初めにやること②:被害状況を把握せよ
【第6回】インシデントが起きたら初めにやること③:「何はともあれ人命優先」が危機対応の最大原則
【第7回】インシデントが起きたら初めにやること④:メンバーのチェックイン、チェックアウト
【第14回】インシデント・コマンド・システムにおける目標設定
【第15回】計画(IAP:インシデントアクションプラン)を立てる
【第16回】事態対処部門(Operations Section)の役割・組織編成のやり方
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