今回は、この「指揮命令系統の一本化」について詳しく説明していきたいと思います。
この講座の【第4回】インシデントが起きたら初めにやること➃:まずは指揮者を決めよ でも少し触れましたが、ICS(インシデントコマンドシステム)では、「指揮命令系統の一本化」という原則を重視します。
今回は指揮命令系統の一本化についてもう少し詳しく掘り下げていきたいと思います。
指揮命令系統の一本化とは何か?
「指揮命令系統の一本化」とは、一人の部下が指揮命令を受けるのは、必ず一人の指揮者からであるという原則です。もう少し細かく噛み砕くと、以下のような意味になります。
- 誰が誰に対して指揮命令をとるのかを明確にすること
- その指揮命令、報告は1本のラインから降りてくるものである
- 他の人から命令を直接受けることはない
組織を結ぶ線は上から下に1本で
ICS各組織図は、原則、上から下への一本の線で結ばれます。横や斜めから線が入ることは絶対にありません。
「そんなことは当たり前じゃないか。」と言われる方もいるかもしれません。確かにその通りですが、小さな災害への対応であれば、組織図に書かれた通りで災害対応が行われますが、ところが、3.11のような甚大災害の場合、この原則が守られず政府、官庁、自治体、企業でも、災害に従事する人たちは大いに混乱しました。
- 政治家に言われて慌てた
- トップダウンの下命が多く他部署との連携に支障が出た
- 正式でないルートから命令的な文章が回って混乱した
- 組織決定事項が伝わってこない
上記のような声が上がっていました。
レベル1クラスの甚大災害における、問題の大半は、災害に従事する人たちの意欲、能力、知識に問題があったというより、組織運営、組織管理の在り方に問題がありました。そしてその傾向は、今も変わっていないと思われます。
(日本防災デザイン編『災害対応の効率性や実効性を阻む7要因(Seven Facters for Dysfanction)と7つの改善の方向性(Seven Efficient Designs for Emergency Response)』より)
災害対応の原則に基づく組織図はできていても、そこにかかわる人々の意識ができていないと組織は機能しないということです。この辺は、組織編制の話でもありますが、管理者の教育の話でもあるかもしれませんね。
指揮命令系統の一本化に含まれる2つの要素
ここでちょっと触れておきたいのが、「指揮命令系統の一本化」という言葉の中には、以下の2つの意味が含まれます。
- 組織(職位)と組織(職位)を結ぶ「権限の流れ」
- 上司(指示する人)と部下(指示を受ける人)の「コミュニケーションの流れ」
英語では、前者をチェーン・オブ・コマンド(Chain of Command)と、後者をユニティ・オブ・コマンド(Unity of Command)と分けていますが、ちょっとややこしいので、この講座では、できるだけわかりやすくするために、ともに「指揮命令系統の一本化」としていますので、ご承知おきくださいね。
情報共有・調整を妨げるものではない
指揮命令系統の一本化により、上から下に組織が広がっていきますが、だからといって横の組織との情報の共有や調整をしてはいけないということではありません。むしろ、情報はできるだけ共有して、積極的に調整をすることが大切です。
では、どのように情報共有するのか?
それにつきましては、別のコラムで詳しくお話ししたいと思います。
文責: 志村邦彦
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日本一わかりやすいインシデント・コマンド・システムのコラム一覧
【第1回】インシデントコマンドシステムの概要・インシデントとは何か?
【第4回】インシデントが起きたら初めにやること①:まずは指揮者(Incident Commander)を決めよ
【第5回】インシデントが起きたら初めにやること②:被害状況を把握せよ
【第6回】インシデントが起きたら初めにやること③:「何はともあれ人命優先」が危機対応の最大原則
【第7回】インシデントが起きたら初めにやること④:メンバーのチェックイン、チェックアウト
【第14回】インシデント・コマンド・システムにおける目標設定
【第15回】計画(IAP:インシデントアクションプラン)を立てる
【第16回】事態対処部門(Operations Section)の役割・組織編成のやり方
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