日本一わかりやすいICS講座も第7回となりました。こちらのコラムを読み続けていただくとお分かりいただけるのですが、ICS(インシデントコマンドシステム)は詰まるところは災害対応のための「組織づくり」であり「仕組みづくり(標準化)」でもあるのです。
組織づくりという観点では、災害の規模が拡大していくにつれて(それこそタイプ1災害やタイプ2災害のような大規模なインシデントレベルでは特に)、その災害対応にあたるメンバーの人数も増えてくるでしょう。
チェックイン、チェックアウトの重要性が問われるのは、どちらかというとインシデントの規模が大きくなった時です。第3回で「インシデントの規模」についてお話ししたのを覚えていますでしょうか?(もし忘れてしまった方は、【第3回日本一わかりやすいICS講座】インシデントの5タイプをもう一度お読みになってみてください)
今回は、チェックインおよびチェックアウトについて詳しく説明していきたいと思います。
チェックインとチェックアウトとは何か?
チェックインとは、メンバーの受け入れのことです。身近な例でいうならば、住民票の届出と同じです。引越ししたら、必ず市役所に転入届を出しますよね?チェックインはそれと同じ考え方です。
ICSでいうチェックインは、これから所属しようとする組織に住民票の届出を出すようなものです。災害対応にあたる組織の受付窓口に行き、「自分はこのような人物です」と必ず氏名も含めた必要事項を届けることになります。
ICSは、災害対応の訓練を受けた指揮者による命令下で、組織に属するメンバーが総出で災害対応あたります。
チェックインのタイミングで、メンバーとして正式に受け入れ、誰の命令下で動くのかも決定します。たとえば、受け入れしたメンバーは、現場で救出作業にあたるのか、医療チームに入るのかといったことも決められるのです。
メンバーがその組織から離れる場合には、チェックインとは逆で、必ずチェックアウトを行います。チェックインをした人が、黙って組織を離れることは、他の参加者に大変な迷惑をかけることも懸念されるからです。(後述)
組織が大きくなるほどチェックインの大事さが問われる
インシデントといっても、物損事故のみの交通事故処理や小火消しくらいならば、チェックインなどいらないかもしれません。対応にあたる人数もせいぜい2〜3人くらいで済むでしょう。
それこそ、タイプ1のインシデントともなれば、災害対応にあたる要因は軽く500人を超えます。
それくらいの規模になったときに、組織の中に誰がいて、どこで何をやっているのかを、現場指揮者が知らないで、適切な指揮命令を下せるでしょうか?
現場指揮者は、「どのような専門性をもった方々が、それぞれ何人くらいいるのか」という人的資源(マンパワー)の全体像をつかみながら、資器材・消耗品の貯蔵状況を把握して、災害対応の作戦を立てます。
また、現場指揮者には、参加者一人ひとりの安全と健康を守る義務があります。
チェックインしたメンバーが、ヘルメット、ゴーグル、グラブ、マスク等の保護具を所持しているか、必要な医薬品・食料品を装備しているか、所持していなければ、組織として供給できるか等をチェックします。
また、チェックインした人の消息が長時間判明しないとしたら、それこそ、気づかぬうちにメンバーがどこかで挟まれ事故に巻き込まれたり、動けないほどの負傷を受けたりしているかもしれません。捜索を出すかどうかの判断にも迫られます。(チェックアウトせずに現場から黙って立ち去ると、他の人に迷惑をかけるかもしれません)
誠に残念なことですが、日本でも、捜索救助を装った盗難や障害事件が起きています。知らぬ間に見知らぬ人物がメンバーに入っていたら、その人には、組織としてちゃんとチェックインしてもらう必要があります。
チェックイン、チェックアウトというと、何か新しいことをやらなければならないみたいな感覚になるかもしれないですが、そのようなことはありません。指揮者として、自分の組織にどのような人がいて・どこで何をしているかを管理するとともに、メンバーの安全や健康を守り、被災者宅の盗難等が起きないように治安を守る、そんな極めて当たり前なプロセスなのです。
文責: 志村邦彦
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日本一わかりやすいインシデント・コマンド・システムのコラム一覧
【第1回】インシデントコマンドシステムの概要・インシデントとは何か?
【第4回】インシデントが起きたら初めにやること①:まずは指揮者(Incident Commander)を決めよ
【第5回】インシデントが起きたら初めにやること②:被害状況を把握せよ
【第6回】インシデントが起きたら初めにやること③:「何はともあれ人命優先」が危機対応の最大原則
【第7回】インシデントが起きたら初めにやること④:メンバーのチェックイン、チェックアウト
【第14回】インシデント・コマンド・システムにおける目標設定
【第15回】計画(IAP:インシデントアクションプラン)を立てる
【第16回】事態対処部門(Operations Section)の役割・組織編成のやり方
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