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【コロナ特集】なぜ、危機が差し迫っても行動しない人がいるのか? 特殊災害・緊急コラム第2弾

2020.04.15

こんにちは、日本防災デザインのCTOの熊丸由布治でございます。

前回のブログでは、後半「B災害の指標」について解説致しました。

その兆候や共通点を述べさせていただきましたが、
これは消防士向けの訓練でも、
一般市民向けの研修でも共通して筆者が強調している点です。

“まずは心の非常スイッチをONにする” ということです。

なぜ、危機が差し迫っても動かない人がいるのか?

厄介なことに人は誰しも例外なく各種の「バイアス」と呼ばれる心のメカニズムを持っています。

その中のひとつに「正常性バイアス」というものがあります。
それを説明するには、9・11全米同時多発テロ事件の時に世界貿易センターの中にいた
生存者の心理状態を分析するのがわかりやすいと思います。

アメリカン航空ボーイング767が時速784kmでビルに衝突し、
4つのフロアーが一瞬で消え失せた訳ですから、
当然その衝撃は小さなものではなかったと想像できます。

しかし後に生存者を調査して分かったことは、
階下への避難行動を取るまでに平均6分かかり、
40%が脱出する前に私物をまとめたり電話をしたりコンピューター作業をしていたそうです。

(犠牲になられた方々の証言を取ることが可能であったら、この数字はもっとシビアなものになっているでしょう)

このことからも分かるように、人間の心理として、
非常時には「まさかこんなことが起こるわけない」と捉えたり、
目の前で起きていることは「これは現実ではなくヴァーチャルではないか」と
考えてしまう傾向のため、認知バイアス(偏見による認識のゆがみ)が働き、
現実を受け入れられない状態に陥いり、
思い込みによって頭が非常事態であるという認識に切り替わらない状況に陥ります。

みんなでいれば怖くない!?

もう一つ代表的なバイアスに「集団同調性バイアス」というものもあります。
2014年に韓国で発生したセウォル号沈没事故
(乗員・乗客の死者299人、行方不明者5人、捜索作業員の死者8人)が
発生した時の映像を記憶している方も多いかと思いますが、
あのような危機的状況の最中、修学旅行中の学生たちは映像の中で
みんなで愉快にふざけ合っていました。

これはもう一つ人間が持つ厄介な心のメカニズムで
「みんなでいれば怖くない」という科学的根拠のない心理状態です。
人は集団では無意識に牽制し合い、他人と違う行動が取れなくなり、
安心感から、逃げる等の行動のタイミングが遅れたり、
多数派同調バイアスともいわれる多数意見が
正しいという状況に支配された状態です。

専門家の言葉を「うのみ」にして被害が拡大!?

他にも「エキスパート・エラー」と呼ばれている、
目の前のリアルな状況より専門家の意見や指示を
鵜呑みにしてしまうことにより招いた最悪の結果という心のメカニズムも存在します。

例をあげるとすれば、1980年に発生した川治プリンスホテル火災です。
川治プリンスホテルでは、当時大浴場と女子浴場の間にあった
露天風呂の解体工事の際、作業に使っていたガスバーナーの火花が
浴場棟に燃え移りました。

火災報知器のベルが鳴りましたが、
従業員は確認もせず、「これはテストですから御安心下さい」
という館内放送を流してしまし、結果、宿泊客や従業員ら
合計45名の死者を出してしまいました。

当時宿泊していたお客様は、

館内放送という「エキスパート」の情報を
鵜呑みにしてしまったということです。
(アナウンスをした従業員は決して専門家という訳ではないが、
宿泊客は館内放送を“エキスパート”として認識してしまったという意。)

今回の新型コロナウイルス騒動で言うと、
当初医療関係者が「これは軽い風邪みたいなもんだよ」との情報がありました。
これも典型的なエキスパートエラーだと言えます。

また某国の大統領は「私のアスリート経験から言うと、
もし新型コロナウイルスに感染しても心配無用だ。
何も気が付かないか悪くなっても、
ちょっとしたインフルエンザ風邪の程度だろう」と発言したことが大きな問題になっていました。

特に、専門家や政治家など発言力のある人たちは、
人命に関わるエキスパートエラーを招くような発言に
はくれぐれも気を付けてほしいと思いますが、
それと同時に、そのような発言をうのみにしてしまわぬよう、
自分自身に対する防衛的な思考(マインドセット)を持つことが重要なのです。

心の非常スイッチをオンにするためには?

これらからもご理解いただけるように
各種バイアスの影響で人間はなかなか心の非常スイッチが
入らない状態に陥りやすいという性質を持っているということです。

それを克服するためにはどうすれば良いかということを考えることが重要なのです。

そのためには、まず 人間の心のメカニズムを知り、
それを克服するためのマインドを醸成すること。(平時の教育・訓練)

勇気を出して率先行動をとること。(危機事態におけるリーダーシップ)
が重要だと考えます。

さて、話を今回の新型コロナウィルス災禍に戻します。
前回のブログでは“B”災害の指標と兆候は2020年1月頃から
出現していたというお話をさせていただきました。

その時点でもしかしたら我々国民も、企業の経営者達も、
自治体も、国も上記に述べたようなバイアスに陥っていたのではないでしょうか。

新型コロナウィルス感染症対策本部が官邸に設置されたのは、
国内で第一例目の患者が確認出来てから15日経った令和2年1月30日でした。
このブログを書いている今日(令和2年4月14日12:00)
現在だけでも国内感染者数 7676人の感染が確認されました。

次回はCBRNE災害が発生した際の初動対応とマネジメント体制について解説したいと思います。

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