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【コロナ危機】危機対応の新しい組織づくりの観点/危機対応組織、組織編制のポイント

2020.06.22

日本防災デザイン代表の志村邦彦です。

今回は、新型コロナウイルス(COVID-19)禍を「災害」としたときの危機対応組織のあり方について、どのように考えたらよいかを述べてみたいと思います。

株式会社日本防災デザイン 代表・志村邦彦
【プロフィール】2011年3月11日の東日本大震災を東京電力の執行役員として経験。災害時における効果的な組織体制づくりの必要性を認識し、2014年8月に熊丸由布治(CTO)と共に当社を創業。

危機から生まれるイノベーション

不幸なことですが、戦争などの国家的な危機によって、いろいろなイノベーション(発明、技術進歩、制度改革等)が生まれ、一気に実用化まで発展したことは、歴史的な事実です。今回もCOVID-19をめぐり、ワクチン・特効薬の開発はもとより、臨床検査技術・薬品の開発も鋭意すすんでいることは、誰もが伺い知るところです。

意外にあっさり開いてしまったオンライン診療の扉

災害対応の観点からすると、今回のCOVID-19により、オンライン診療が開かれたのは、大きな進展だと思います。なかなか進まなかったオンライン診療の扉も、「人と人との接触を回避する」という理由から、意外にあっさり開いてしまったとの感はあります。

現在のオンライン診療はできることが限定されていますが、今後は、被災地の避難所に医師がいなくとも、薬の処方ができるなどの可能性が生まれました。危機対応における制度面でのイノベーションです。

開いた扉が閉じるのか?

これからは、オンライン受診者数がどれだけ増加するかや、患者さんのご要望がどれだけ高まるかにもよりますが、オンライン診療に、最先端の「画像解析技術」「検体分析技術」「5Gの通信技術」及び「AIによる判断技術」が結びついたときには、医療現場のシーンは大きく変わるものと思います。

「セカンドオピニオンは、AIにお願いします」という日が来ることもそう遠くないかもしれません。既に熾烈な利権獲得競争が世界レベルで起きていると伺います。一旦空いたオンライン診療の扉は、もう閉じることができないのではないでしょうか。

ここに、COVID-19インシデント対応の本質があります。

BCPにおける「復旧のラストステージ」は何をもってするのか

東日本大震災(2011.3.11)と今回の新型コロナウイルス(COVID-19)禍は、どちらも日本にとっての国家的な甚大災害ですが、一番の大きな違いは、BCP(事業継続計画)における最終的な復旧ステージの違いだと思います。

仮に、2011年3月11日以降、今日までを、「3.11復旧期間」と無理やり区切れば(実際にはまだ復旧活動は続いていますが)、各企業がやってきたことは、対外的には「福島浜通り地域を中心とする東北地方の復興貢献」であり、社内的には「生産設備の復旧」であり、「サプライチェーンの回復」という、比較的「ハード面の原状回復」が中心的だったかと思います。国の復興予算の大半もハコモノに費やされてきています。

結果として、「9年がたって、地元の街並みも整い、人も戻り、やっと落ち着いた生活に戻った」という終息のイメージが持てます。

悲惨な被害の顕在化は遅く、DX の加速化は進む

一方、今年の1月28日以降、我が国で起きたことは、マスクや消毒薬の不足はあったものの、医療崩壊・ロックダウンの危機を国民の外出自粛で乗り切り、ご家庭では、オンライン購買や各種電子申請が進みました。

企業では、テレワーク、オンライン会議、webセミナーが定着しました。ある意味では、デジタルトランスフォーメーション(DX)※やデジタルガバメント※の世界に一歩近づいたといえるのではないでしょうか。その一例が、先に述べたオンライン診療です。

「人と人の接触回避」とか「距離によるデメリットの減少」というコンセプトは、まだまだ続きます。顧客対応、生産方法、社内業務運営等を大きく変えなければならない中で、以前と同じような売上利益の確保、もしくは、更なる競争上の優位性を確保しようとすれば、その復旧ステージが「ハード面での原状回復」ではないはずです。

モノが壊れたり、焼けたりしたわけではないため、そもそもの被害の形や規模や特性が何で、どこにどのような影響が出るのかさえもよく把握できていません。

一方で水面下で国を含めた経済の深刻な混乱と停滞が起きており、相当に各企業の存立基盤を痛めながら、表面的には、先行者利得の確保・シェア獲得目的で、各種のシステムやビジネスモデルの開発で、熾烈な戦いが繰り広げられています。結果が見えたときには、勝負がついているのかもしれません。

「ワクチンと特効薬が開発されたときが、復旧のラストステージ」としても、それは健康被害の収束かもしれませんが、経営の観点からすれば、その間を不作為でいたら、それは事業終息のステージになるのかもしれません。

なんらかの危機対応体制を組んで、しっかりとした取り組みを展開することが必要となります。

※デジタルトランスフォーメーション(DX)定義:企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。(平成30年12月経済産業省「デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン」より)

※令和元年12月20日政府CIOポータル「デジタルガバメント実行計画」

「ニュー・ノーマル」という静止画を描くことの難しさ

今回のCOVID-19インシデントを契機に、デジタルトランスフォーメーションの具体化が本格的に始動したとするならば、「常に、製品やサービスやビジネスモデルの変革を進め、成果を上げ続ける」、その連続性を担保することに健全な回復があるろうかと思われます。一連の変革フローを断ち切って、その静的な断面を「ニュー・ノーマル」だと称したとしても、「今日のノーマルは、明日のノーマルではない」として、「常に新技術や新システムの新結合」が続くイメージではないでしょうか。

復旧目標があるなら危機対応の組織づくりは必須

ここまでの話は、どこかの誰かが同じようなことを、言ったり書いたりしているかもしれませんが、ここからは、「危機対応の組織論」に入ります。

3.11の時もそうでしたが、大災害の惨状を眼前にしても、当時の日本人のほとんどは、「直ちに、どのような組織編制をしたら良いか」を知りませんでした。残念ながら、そのことは今も変わっていないかもしれません。

ただ、リスク管理の観点からすれば、もし経営者がCOVID-19インシデントを本当に危機だと認識し、それを乗り越える強い意志をもって「目標を掲げる」なら、名称はいざ知らず、「危機対応の機能をもった組織づくりは必須要件」です。

戦いに向かう強い意志と強靭な布陣がなくして、効率的・合理的な災害対応はなし得ないし、ましては競争優位を確保することなど決してあり得ないという厳然たる事実があります。

危機対応組織、組織編制のポイント

危機対応のインシデント・コマンド・システム(ICS)では、オールハザードという概念で、どのような災害にも共通の原則をもって対処するとしています。 COVID-19対応の組織編制についてもその原則はあてはまります。

前提1:最高意思決定者(通常社長)による現場指揮者(インシデント・コマンダー:IC)の任命

そのインシデントに最も適切な人物を選定し、必要な権限を委譲します。通常業務の役職・職制にこだわらず人物本位でICを任命します。

前提2:災害対応組織と、通常の業務運営組織との区分

できるだけ兼務をしないことが望ましいのですが、兼務をする場合も指揮命令系統は明確に区分すべきです。

ポイント1:災害特質の把握

ICSでは、災害対応で一番先にやることは「size up」です。「測定、評価」と訳されますが、その言葉の中には、その災害の今後の広がりの想定も含まれます。

ポイント2:必要な機能分析・目標設定

災害の規模、特製に応じて、どのような機能が必要かを分析します。復旧の目標 を設定し、それに必要な資源量(人・モノ・カネ・情報手段等)を決めます。

ポイント3:最前線部隊の編制

ポイント2で行った必要機能に応じて、必要な人材、機材をそろえて最前線部隊を編制します。この組織が災害対応のほとんどを遂行します。災害の展開に応じて、モジュラー型組織編制の考え方で組織の拡大・縮小を弾力的に行います。

ポイント4:後方支援機能の整備

 通常、ICSにおける後方支援機能としては、標準的には「調査・計画部門」「資材調達・提供部門」「決算・総務部門」を置きます。

ポイント5:危機対応のPDCAを回わすプロトコル(運営方式)・会議体の設置

 会社として危機対応にしっかりと取り組むためには、常に進捗を管理する仕組みを社内に整備し、最高意思決定者がプロセス管理することが重要です。

COVID-19インシデントの対応組織

以上は、ICSにおける危機対応における組織づくりの留意点です。
一貫しているのは「機能主義(functional approach)」ということです。

COVID-19インシデントの現状サイズアップには、災害対応ばかりでなく、
医療的な知見を持つ人物も必要でしょう。

復旧目標の達成には、新たな製品やサービスの形を構想できたり、
生産方式の新技術に長けた人材が必要でしょう。

新たなビジネスモデルを構想するには、
自由な発想を持つ人物や新事業を立ち上げた経験を
持つ人物は役立つかもしれません。

新しい製品やサービスのアジャイルな開発を担う
プロジェクトマネジメントの専門家も必要となるかもしれません。

いずれにしても、東日本大震災(2011.3.11)と今回の新型コロナウイルス(COVID-19)危機対応組織では、
顔ぶれが大きく異なるし、対応内容が全く異なることも想像に難くありません。

COVID-19危機対応の第一歩は、今までの「これまでの災害対応とは
全く違う様々な分野の人材の新結合」を、社内でどのように
うまく構成するかにかかっているのかもしれません。

全く違った危機対応を進めるために。 

以上    

日本一わかりやすいインシデント・コマンド・システムのコラム一覧

【第1回】インシデントコマンドシステムの概要・インシデントとは何か?

【第2回】オールハザードとは何か?

【第3回】インシデントの5タイプ

【第4回】インシデントが起きたら初めにやること①:まずは指揮者(Incident Commander)を決めよ

【第5回】インシデントが起きたら初めにやること②:被害状況を把握せよ

【第6回】インシデントが起きたら初めにやること③:「何はともあれ人命優先」が危機対応の最大原則

【第7回】インシデントが起きたら初めにやること④:メンバーのチェックイン、チェックアウト

【第8回】組織づくりの基本①:組織の機能の洗い出し

【第9回】組織づくりの基本②:モジュラー型組織

【第10回】組織づくりの基本③:スパンオブコントロール

【第11回】組織づくりの基本④:指揮命令系統の一本化

【第12回】組織づくりの基本⑤:災害対策本部(EOC)

【第13回】組織づくりの基本⑥:指揮と調整の違いについて

【第14回】インシデント・コマンド・システムにおける目標設定

【第15回】計画(IAP:インシデントアクションプラン)を立てる

【第16回】事態対処部門(Operations Section)の役割・組織編成のやり方

【第17回】現場指揮所と現場集結拠点を設置する

【第18回】災害対応の初動対応のあり方

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