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コロナ禍の複合災害に対応できる組織体制とは?/台風、大雨、水害や地震を含めてどう対応する?

2020.06.29

こんにちは、日本防災デザイン代表の志村邦彦です。

今回は複合災害発生時の危機対応の体制づくりです。
わかりやすく言うと、「甚大災害が2つも3つも4つも、 同時に、重なったら、どうしますか?」というお話です。

株式会社日本防災デザイン 代表・志村邦彦
【プロフィール】2011年3月11日の東日本大震災を東京電力の執行役員として経験。災害時における効果的な組織体制づくりの必要性を認識し、2014年8月に熊丸由布治(CTO)と共に当社を創業。

必ずやってくる複合災害!

COVID-19のワクチンもしくは 特効薬が開発されるまでは、

現在の新型コロナウィルス災害は続きます。

毎年、夏場の「集中豪雨」「台風」「洪水」は高い確率で発生し、今年も例外ではありません。
また、「首都直下型地震」「南海トラフ地震」「津波」「火山噴火」等の甚大災害が起きることも考えられます。

経営者(トップ)の責任

そのような複合災害が発生した時にどのような組織体制を取るかと言うのは、経営者の危機管理責任の大きなポイントになろうかと思います。複合災害に対する「組織体制」について触れている記事は日本国内には、ほとんどないのではないでしょうか。

発災以降に求められる本当に大切なこと

今、複合災害に関しては、「避難所における 隔離距離と収容人数の問題」が中心的な話題としてとりあげられています。事前に想定し、準備し、そのための訓練等を実施しておくことは、とても大切なことです。

一方、発災以降に、経営責任者に、求められることは、「避難指示」を含めて、「適切な指揮命令系統を確立」して、「救助救命されるべき人(要救助者)」と「救助する人(救助者)」を最も合理的かつ最速で結びつけ、「必要とされるところ」に「必要な物資(食糧、医薬品等)」を最もタイミングよく配布する体制を整えることではないでしょうか。

一般的なBCPの弱点

一般的な、日本の災害対応計画や事業継続計画(BCP等)では、災害種別ごとにリスクシナリオと対応策が検討され、一つひとつが検索できるケースとしてきちんと整理され、ホルダーに保管され、いつでも取り出せれようにしてあります。単独災害が発生した場合は、速やかにそれを参照して対応にあたることになっています。

複合化はシナリオを超える

ところが厄介なのは、災害の種類によって集まる人が違っていたり、主幹となる部署が微妙に異なります。

種類の違う甚大災害が2つも3つも4つも重なった際に、「現場対応」「支援体制」「災害対策本部側」をどのように一本化すべきかについて、明確に記載されたBCPや、BCMマニュアルを見たことはありません。

災害対策本部は、超満員

事前の計画で、個別の災害種別ごとに集まることになっていた人が、全員一気に、災害対策本部に集まったら、大勢の人で一杯になります。

3密の中で、本当に「効率的」かつ「即時即応」の「的確な」意思決定ができるのか、疑問も湧きます。

問題の本質はどこにある?

本当の課題は、単一の災害の重なりは、新たな対応の必要性が生まれてきたり、災害対応そのものの性質が大きく変わってしまうこともあり得ることです。

その例が冒頭に挙げたような「避難所の離隔距離と収容限界」です。

COVID-19による困難性の付加です。

東日本大震災は、地震と津波の災害でしたが、そのことにより原子力災害が発生したことは記憶に新しいところであります。

災害対応の人間から見れば、複合災害は、勝手に「自己増殖」します。「単体の災害シナリオの積み上げ合算」で対応するだけでは、決して治らないのです。

明確に言い切るアメリカ国家基準!

米国の災害対応に関する標準となるインシデント・コマンド・システム(以下、ICSと記)では、複合災害をインシデント・コンプレックスとして、その対応をNIMSという国家基準の中で、明確にしています。

ICSでは「オールハザード」の概念で、どのような災害でも、対応する組織の基本形は決まっています。

従って、現場で戦う

1:事態対処(オペレーション)部門

2:対策立案部門

3:後方支援(資材供給)部門

4:財務・総務部門

5:インテリジェンス・調査部門

の基本構造は変わりません。

(詳しくは下記記載の弊社ホームページ 日本一わかりやすいICSをご覧ください)
【第16回】事態対処部門(Operations Section)の役割・組織編成のやり方

複合災害でICSを適応した場合

甚大災害が起きたときにどうするかについては、米国では明確です。結論的には以下の2点です。

1.最前線に立つ「事態対処(オペレーション)部門を、災害ごとに必要な機能に応じて大胆に組織分割して、それぞれに必要な資源を投入し、機能区分単位に、できるだけ安全で、きめ細かく丁寧な対応ができるようにする」ということです。

2.一方、後方支援部門については、複合災害になる前(単一災害のICS体制ができている)に、確立されていた「対策立案部門」「後方支援(資材供給)部門」「財務・総務部門」「インテリジェンス・調査部門」があるなら、複合災害になっても、そのセクションはできるだけ「そのまま保持」して、「その機能を最大限活用する」という原則になっています。 むしろ、過剰な人材や資源の投入によって発生する調整作業等の非効率を厳しく戒めています。

詳しくは、セミナーでも解説しています。
下記をご覧ください。

複合災害でも、粛々と危機対応を継続する

ICSの考え方に立てば、複合災害になっても、

最前線の事態対処部門は、
「限りなく柔軟に編成をして思い切って戦え!」と指示します。

一方バックオフィスとなる機能については、
「既存の調達・配送ルート、システム等を最大限に有効活用して、
間髪を入れずに戦いを支援せよ!」との指示になるのです。

組織の本質的な骨格は変えず(現場最前線の組織は変わりますが)、粛々と危機対応の強化・継続を確保するだけです。

組織全体が物理的に拡大する必要はなく、それぞれの機能集積を高めよ(いろいろな計画・調達・配分が集約してできるようにする)ということです。

さらに事態が拡大した場合のエスカレーション

今回は複合災害に対する「一つの企業における自己対応のあり方」について述べました。

当然のことながら、一つの組織で処理しきれない場合も発生しますので、その際には、どういうエスカレーション(上位への支援要請等)を取ったら良いかについては別の機会に触れたいと思います。

それは国家が災害対応に対して企業とどのような連携を取るかという意思にもよります。

いずれにしましてもICSの普及が世界レベルですすみ、上記のような複合災害対処のベストプラクティスと評されていて、日本では直近にも複合災害の可能性があるとしたら、ICSの観点から、現行のBCPの見直しを含めた社内検討を進められてはいかがでしょうか。

これらの考え方を下記のセミナーやコラムでも説明しておりますので、ぜひ、ご覧ください。

以上    

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日本一わかりやすいICSのコラム一覧

【第1回】インシデントコマンドシステムの概要・インシデントとは何か?

【第2回】オールハザードとは何か?

【第3回】インシデントの5タイプ

【第4回】インシデントが起きたら初めにやること①:まずは指揮者(Incident Commander)を決めよ

【第5回】インシデントが起きたら初めにやること②:被害状況を把握せよ

【第6回】インシデントが起きたら初めにやること③:「何はともあれ人命優先」が危機対応の最大原則

【第7回】インシデントが起きたら初めにやること④:メンバーのチェックイン、チェックアウト

【第8回】組織づくりの基本①:組織の機能の洗い出し

【第9回】組織づくりの基本②:モジュラー型組織

【第10回】組織づくりの基本③:スパンオブコントロール

【第11回】組織づくりの基本④:指揮命令系統の一本化

【第12回】組織づくりの基本⑤:災害対策本部(EOC)

【第13回】組織づくりの基本⑥:指揮と調整の違いについて

【第14回】インシデント・コマンド・システムにおける目標設定

【第15回】計画(IAP:インシデントアクションプラン)を立てる

【第16回】事態対処部門(Operations Section)の役割・組織編成のやり方

【第17回】現場指揮所と現場集結拠点を設置する

【第18回】災害対応の初動対応のあり方

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