日本防災デザイン代表の志村邦彦です。
5月26日に緊急事態宣言が全面解除されましたが、その後も各地で感染者の増加がみられるなど、まだまだ新型コロナウイルス対応の取り組みは続いています。
ここまでの事態収束に邁進された医療関係者や政府・自治体・団体・企業の関係者の皆さまの労を多とし、衷心より敬意を表し感謝したいと存じます。
また、今も続くご努力、ご尽力が安全に遂行されますことをお祈り申し上げるとともに、引き続き、社会安寧へのご貢献を賜りますよう心よりお願い申し上げます。
「想定外」を「想定内」にするためには、何をすべきか?
ところで、突然ですが、御社にとって、ここまでの新型コロナウイルス対応は、いかがだったでしょうか?
「こんなことになるとは、だれにも想定できなかった。想定外だったから仕方ない」ということで納まっているのでしょうか?
今回は、企業における「想定外」を「想定内」にするには、具体的にどのような事をしたら良いかについて触れてみたいと思います。
日本の「想定外」は世界からすれば「想定内」!
3.11東日本大震災の津波を「想定外」とするか「想定内」とするかという議論は今も続いていますが、それ以降も、「想定外」と言われた災害(地震、集中豪雨、台風等)は、日本の各地で続いています。
一方、世界的には、今回のような新型インフルエンザ禍も含め、生物学的脅威はある程度、既に想定されていて、残念ながら、それが現実化したとも言えます。
昨年(2019年)の、世界経済フォーラム(通称ダボス会議)のグローバルリスク報告書を見ても、生物学的リスクを、「2000年以降は大惨事の瀬戸際の繰り返し」とし、「世界的な健康安全保障」の脆弱性について、報告書の第4章で次のような観点から、大きく取りあげられています。
・グローバル化を含め現代人の生活様式の変化が、生物学的脅威の大流行をもたらすリスクを高めていること
・それにより、社会生活や経済活動に甚大な影響がもたらされる懸念があること
・巨大な影響に対し、自国はもとより世界的な協力体制を含め、その対応は極めて脆弱であること
【参考】『The Global Risk Report 2019 P.45-51』
「わが社は問題なし!」、それだけでよいのでしょうか?
これだけの頻度でこれだけの規模でいろいろな「想定しないことが起きている」という事実に対して、
「BCPで備えていたが、一般的な想定を外れる事象なので、当社だけの責任ではなく、運が悪かった」とか、
「いまのところ、国や自治体の行政指導を、社員も理解・遵守して問題はない」
というような、自社無謬性※で済まされるのでしょうか。
※無謬(むびゅう)性:思考や判断に誤りがないこと。
ただ、もしBCPを見直すとすれば、
・「なぜ、世界で話題になるようなリスク情報が、自社では取得できなかったのか」
・「なぜ、国や自治体の行政指導が見通せず、会社としての動きがとれなかった」
・「なぜ、どこでどのような情報を取ればよいか分からなかった」
というようなことの背景等も検討してみてはいかがでしょうか。
今回のパンデミックの教訓の一つには、一企業の責任というより、日本全体について、「パンデミックに関する発災前、発災後、および今後の見通しについての情報の少なさ」もあったと思われます。
BCPにおける「想定外」とは?
BCPを既に策定している企業においての「想定外」とは、
・そもそもリスク項目として認識しなかった
・リスク項目として認識はしていたが、その影響度を過小評価していた
・リスクシナリオが全く違うものであった
等があろうかと思います。
「想定外」を「想定内」にするプロセス
「想定内」とするプロセスは上記を補うものに他なりません。
【リスク項目】
災害対応計画もしくは事業継続計画(BCP)においては、
上記のとおりリスク項目として「パンデミック」をしっかりと位置付けて、
その分析と評価を行います。この辺りは、まさに今起きていることですので、
そのような影響があるのかを具体化できます。
【必要機能・役割の特定】
そして、ここからが大切なのですが、通常、特定のリスク対応に必要とされる機能・役割をリストアップします。
「対処事項」とか「任務」もしくは「やるべきこと」とか言われるものです。
このリストの中に、現状の対応で不足している点、問題になっている点を書き込みます。
リスクシナリオのイメージがつきやすいので、いろいろな項目が出てくるとおもいます。
マスクや消毒液の備蓄やテレワーク備品やシステムの整備ということもありますが、
今回のパンデミックでは、「情報/インテリジェンスの収集・集約・管理」機能の
充実が一つのポイントになろうかと思われます。
【役割分担組織】
上記でリストアップされた機能・役割を、組織内の部門・部署もしくは連携先に割り振ります。
【連携・調整】
役割を担当する組織は、その役割を遂行するための標準運用基準(SOP:Standard Operating Procedure)を作ります。
その過程では、災害時に協力しあう機関どうしで、効率的なやり方を話し合い、必要ならば、協定を結ぶこともあります。
大切なことは、お互いがどのような情報を、いつ必要とし、どのような形にして、どのような手段で交換し、
共有するかをあらかじめ決めておくことです。
「パンデミック災害」を想定内にする際のポイント
すでに述べたように、今回の新型コロナウイルス対応で、企業の方々の間で話題になっているのが、「情報収集の困難性」です。
・出退勤の時間制限、出勤制限、テレワーク等の検討
・非常事態宣言解除後の運営の検討
・新たなビジネスモデルの検討 等
に際して、その判断材料となる情報が不足しているという声を伺います。
流行初期から緊急事態宣言が出されることまでは、
発表される数字は感染者数、重傷者、死亡者数の推移だけでした。
また、各省庁の動きが協調するというよりも、
競い合って様々な施策を打ち出すので、全体を俯瞰しずらい面もあると伺います。
ICS的には、情報/インテリジェンス管理の強化・徹底を
米国の危機管理基準(NIMS:National Incident Managemnt System)に基づく
インシデント・コマンド・システム(ICS) では、
情報/インテリジェンス管理を重要項目として位置付けています。
特に、NIMSにおける「インテリジェンス」とは、
警察等法執行機関の調査、医学的監視機関の調査等における
「脅威関連情報」を指し、当然ながら「生物学的脅威」が含まれます。
そのため、ICSでは、
①情報/インテリジェンスのプロセス(収集→分析→評価→共有→管理)を明確化するとともに、
②情報入手についても様々な情報ソースから収集・集積することが
推奨されており、情報ソース(提供先)の例示もされています。(FEMA HP)
役割分担組織と連携先の明確化を
今後、「パンデミック災害」を「想定内」にする際の留意点とすれば、
米国のように国家として危機管理を統括する機関がない日本では、
このような情報収集・分析機能の重要性を自組織内で共有するとともに、
実施部門を明確化しておくことが望まれます。
情報/インテリジェンス管理を、主体的に行うとともに、
関係機関とどのように連携・共有しあうかを協議しておくことが、
効率的な危機管理に資する大切なポイントとなります。
なぜなら、今後の Post コロナの社会の中で、
自社の存立意義の確立や競争優位性を確保しようとすならば、
ワクチンや特効薬開発最新状況や、技術革新の動静、政治や市民活動の状況等に関する
正確な最新情報およびテロ等の脅威に係るインテリジェンス情報からは、目が離せないはずだからです。