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【第21回:日本一わかりやすいICS講座】後方支援部門(Logistics Section)の役割・機能

2020.11.12

第20回の計画立案部門に続き、今回は後方支援部門(ロジスティクス)についてご紹介していきます。

後方支援部門の役割は、災害対応に必要な設備やサービス、人員、物資を現場に供給することにあります。 具体的には、インシデントの予兆もしくは発生とともに、 ①できるだけ早急に、できるだけ適切な現場への食糧、資器材等の供給体制を組み立てること ➁現場第一線の必要性をできるだけ充足すること ➂状況の変化に応じて、補充・撤収を効率的に行うこと が求められるわけですので、とても重要な役割です。

日本の弱い部分、力の入れようの違い

第二次世界大戦の歴史的事実として、兵站(へいたん)の追いつかない戦線拡張をし、また食糧、資器材の輸送ルートと手段を、敵国から意図的に寸断されたら、どのような悲劇が起きるかを、我が国は経験いたしました。後方支援の必要性を痛いほど認識したはずです。

国際緊急援助隊で海外に出動した方の話を聞いたり、米軍の災害対応時の後方支援体制などの実態を伺うと、最前線で対応する人々に対するキャンティーンと呼ばれる野外食堂・食料供給所や、レーションと言われる配給食糧や、休息・就寝のための設備、施設は、日本の比でなく充実しているとのことでした。

もっともっと注目されてよいロジスティクス

災害列島日本において、今後も甚大災害が起きることは十分に懸念されます。災害現場の最前線で活動する方々の健康・安全面や士気の面からも、被害拡大防止及び復旧の効率化の面からも、もっとロジスティクスに対する認識を高める必要性を感じます。

災害対応の重要項目を占めるロジスティクス

米国の災害対応の国家基準となる「国家事態管理システム(NIMS: National Incident Management  System)」は、3つの大きな柱で構成されています。1つは「包括的な資源管理」、2つ目が「インシデント・コマンド・システムと多機関連携」、3つ目が「情報通信管理」です。

3つの大きな柱のうちの2つ「包括的な資源管理」と「情報通信管理」をどこが担うかといえば、この後方支援部門と非常災害対策本部の連携で担うこととなります。

訓練のレベルは「ロジスティクスへの取り組み」で見透かされてしまう?!

災害対応の本部運営訓練においては、指揮命令系統の確立も大切ですが、どこまで通信手段の確保や代替手段が担保されているのか、指揮者・本部間の戦略ネットワークや業務面での個別ネットワークが確立されているのか、多機関連携の連絡ルートは確認されているかは、落としてはいけない項目で、「通信計画」となります。

また、初動段階では、災害対応に必要な資源量を潤沢に確保できることなどあり得ないので、当然、優先順位をつけることになります。当然優先順位の高いところに、資源は集中され、そうでないところの分を融通することもあり得ます。

 

実践性を高めるには様々なバリエーションを想定して

また、社内復旧目標を決めても、その復旧に関して、顧客や行政や政治関係等の外部利害関係者から、復旧の早期化を求められることもあるかもしれません。その際は、自社の手持ちも含めて、包括的な資源管理が必須となります。それにより、人員の追加応援要請や資材の緊急調達や生産の外部委託というような、きわめて戦略的な判断をすることになります。

よくある災害対応訓練は、被害状況報告の集約と自社の資材報告でとどまってしまいます。望ましくは、代替通信手段や相互運用性(インターオペラビリティ)や多機関連携先との通信手段も確認いただきたいし、外部ステークホルダーを視野に入れた、戦略的かつ柔軟な資源配分のケースも検討いただけると、より実践的な訓練になろうかと思います。

 

世界レベルの基準と比べられる日も近い?

「総合対策訓練」とか、「グループ連携訓練」とかでは、自治体や会社のトップやの方がご出席になられることが多々あります。ただ、上記のような視点がないと、分かっている専門家の方は、「あぁ、この訓練はセレモニーなんだ」と判断されかねません。その際の比較基準は、たぶん、米国の演習・訓練評価の指標は上述の「NIMS」および「HSEEP: Homeland Security Exercise Evaluation Guide」の「Exerecise Evaluation Guide」に詳細に記載されています。世界レベルの訓練評価基準だと思います。世界レベルでは、どの程度、後方支援部門の業務を尊重しているかご認識いただけたら幸甚です。

 

後方支援部門の役割

後方支援部門の役割・機能は以下のとおりです。

・必要人員、資機材、補給品の計画・発注・入手・管理

・通信計画の作成・資器材調達・各種ネット環境の整備・維持

・インシデント関係者への食糧提供

・インシデント対応施設の準備・維持・管理

・輸送手段の確保、提供

・資器材の搬送・配布

・医療施設整備・医薬品調達・サービス提供

 

後方支援部門の組織

供給ユニット

インシデントに関係するすべての資機材の発注、入手、保管、管理、および配布を実施します。IAPの策定に必要な資源情報を提供します。

施設ユニット

インシデント運用に必要となる施設(現地指揮所、集結拠点、宿営地等)を設営、維持、撤収します。インシデント対応者に対する、食料および水の配布、睡眠場所の確保、シャワー、トイレ等を施設ユニットが担当しますが、被災者への避難シェルターなどはIAPに組み入れられますが、そちらの実運用は米国赤十字社等のNPOによって運営されます。

地上支援ユニット

空輸を除く地上輸送手段及び移動用機器の管理、修理、及び燃料の確保を行うとともに、運行計画を策定する。

通信ユニット

通信計画(ICSフォーム205)を策定し、全ての通信機器の設置と通話試験と運用管理を行います。無線周波数等の割当を計画的に行い、コマンドネットワーク、戦術ネットワーク等を確立し、その運用サポートにあたります。

インシデント担当者への必要な通信機器を配布・回収を担当するとともに、現場でできる修理も実施します。

通信ユニットリーダーは、通信システムが常に利用可能な状況となるよう全てのインシデント計画会議に出席することとされています。それだけ危機対応における通信の機能の維持は重視されています。

食糧ユニット

キャンティーン(災害時簡易食堂もしくは車両)を設置し、調理設備を整備し、メニューを計画し、食品を注文し、調理師、配食します。

3.11の経験から、現場第一線の対応者は、最初は乾燥食料やお湯を足す麺類・穀を口にしなくなる傾向があります。最前線の士気を高める意味でも、温かい食事は重要です。

食糧ユニットは、食品の安全にも管理に責任を持ちます。

また、食糧ユニットのサービスは、インシデントが延長や拡大される場合には、特に需要となります。ある程度の想定をつけて、全てのインシデント対応者に渡すようにするには、ある時は遠隔場所(ステージングエリア、キャンプ)や担当業務から離れられないメンバーへの配膳サービスを実施することもあります。

なお、被災者等への食糧供給はIAPとして検討されますが、実際は米国赤十字やNGOが行います。

医療ユニット

医療ユニットも原則、インシデント対応者を対象とし、一般の被災者等への対応は、事態対処部門の業務としてIAPには組み込まれますので、こちらでは対応しません。

治療、必要に応じて予防接種、メンタルヘルス診療をおこないます。また、インシデント対応者の定期的な休息と回復を指導します。

 

<h2>後方支援部門は2つのブランチと6つのユニットに分けることもできる</h2>

以上のユニットを、「必要品の受・発注の手続き」や、「整備の建設や設置、修繕」をしたり、「搬送する車両の管理」をする「サポートブランチ」と、「ネットの運用、通信の運営」などのサービスや「医療サービス」や「食糧提供サービス」直接的にサービスを提供する「サービスユニット」に分割することもできます。

サービスとサポートを区分

 

最後までお読みいただきありがとうございました。ICSについて、まだまだお話したいことは、たくさんあります。ひきつづきのアクセスを、どうぞよろしくお願いいたします。ご質問ご意見は下記までお寄せください。

執筆、文責:志村邦彦 shimura©jerd.co.jp  (メール送付の差異は©を@に変えてお送りください)

 

日本一わかりやすいインシデント・コマンド・システムのコラム一覧

【第1回】インシデントコマンドシステムの概要・インシデントとは何か?

【第2回】オールハザードとは何か?

【第3回】インシデントの5タイプ

【第4回】インシデントが起きたら初めにやること①:まずは指揮者(Incident Commander)を決めよ

【第5回】インシデントが起きたら初めにやること②:被害状況を把握せよ

【第6回】インシデントが起きたら初めにやること③:「何はともあれ人命優先」が危機対応の最大原則

【第7回】インシデントが起きたら初めにやること④:メンバーのチェックイン、チェックアウト

【第8回】組織づくりの基本①:組織の機能の洗い出し

【第9回】組織づくりの基本②:モジュラー型組織

【第10回】組織づくりの基本③:スパンオブコントロール

【第11回】組織づくりの基本④:指揮命令系統の一本化

【第12回】組織づくりの基本⑤:災害対策本部(EOC)

【第13回】組織づくりの基本⑥:指揮と調整の違いについて

【第14回】インシデント・コマンド・システムにおける目標設定

【第15回】計画(IAP:インシデントアクションプラン)を立てる

【第16回】事態対処部門(Operations Section)の役割・組織編成のやり方

【第17回】現場指揮所と現場集結拠点を設置する

【第18回】災害対応の初動対応のあり方

【第19回】計画立案部門の役割・機能

【第20回】インテリジェンス/調査機能を立ち上げる

第21回】後方支援部門の役割・機能

 

 

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