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もし緊急地震速報が誤報でなく、本当に地震がきていたら

2020.08.03

日本防災デザイン代表の志村邦彦です。

今回は、「もし緊急地震速報が誤報でなく、本当に地震がきていたら」について触れてみたいと思います。


株式会社日本防災デザイン 代表・志村邦彦
【プロフィール】2011年3月11日の東日本大震災を東京電力の執行役員として経験。災害時における効果的な組織体制づくりの必要性を認識し、当社を創業。

首都圏を驚かせた緊急地震速報

先週木曜日の7月30日9時36分に、強い地震が来るとの緊急地震速報が発表されました。房総半島南沖を震源地とするマグニチュード7.3の地震が発生し、関東・甲信越・東海地方から福島県にかけて、最大震度5強の地震をもたらすとのことでした。また、津波の心配があるので必要な避難をするようにとのことでした。

実際には、、、

房総沖とされた震源地が、実際には450km離れた鳥島近海であり、マグニチュードは5.8でした。本州では、震度1以上の揺れは観測されませんでした。同日の2時間後(11時半)の気象庁の会見は、結果的には、「誤計測による誤報のお詫び」となりました。

「誤報で良かった」で、済ますのではなく

そこで、今回の緊急地震速報を「誤報で良かった」で済ますのではなく、「もし、これが実際に起きていたら、どうすべきであるか」を考えてみたいと思います。
なぜなら、30年以内に70%の確率で起きるとされる首都直下地震の想定規模も、「東京湾内でマグニチュード7級の地震」とされていて、それと同じ規模の地震が、目と鼻の先の房総沖で起きたことになるからです。

「複合災害」の現実感

携帯電話が鳴って、直ぐにテレビをつけて、その画面を見たときに、思ったことは、「新型コロナウイルスや豪雨水害に見舞われているこの日本に、こんな形で複合災害は重なって、こうして悲劇のストリーは始まるのか。」という切ない思いでした。同時に、「今、各企業や組織は、どう対応していくのだろうか」と。

仮に誤報ではなくて、房総近海を震源地とするマグニチュード7以上の地震が起きていたら、首都直下地震の想定から類推すれば、建物倒壊及び火災により甚大な被害と多数の死者が出ていたことでしょう。津波により首都圏の一部が水没し、地下鉄、地下変電所等の構造物をはじめとして、インフラ設備全般が深刻な打撃を受けていたことも懸念されます。
(被害想定の詳細は、「首都直下地震被害想定」で検索すると、政府や新聞社による数字が閲覧できます)

深刻な「複合災害」に際し、トップはどう臨むのか

これまでの新型コロナウイルス禍や全国の水害でさえ「大規模災害」ですが、それに輪をかけ、上記のような深刻な災害が降りかかった時、組織のトップに立つ者はどのようなスタンスで臨めばよいのでしょうか?

プロアクティブの原則

務台俊介氏によれば、米国には、大規模災害が起きた場合のトップに立つべき者の行動原則があり、「プロアクティブの行動原則」と呼ばれているとのことです。災害が大規模になるほど、初期段階の情報は入ってこないので、その際どのようなスタンスで臨むかという行動基準です。
第1は「疑わしきは行動せよ」
第2は「最悪事態を想定して行動せよ」
第3は「空振りは許されるが見過ごしは許されない」
というものです。 【参考】『3.11以降の日本の危機管理を問う』務台俊介編著 晃洋書房2013 p.6

経営者の役割・責任は大きく・重い

プロアクティブの原則は、発生しつつあるインシデントの「初動対応の意思決定」にも当てはまりますし、中長期的な観点から、「BCPをもっとスケールアップする意思決定」にも当てはまります。

初動対応におけるプロアクティブ原則

大規模地震が来たとしたら、たぶん、初動の段階では、情報はなかなか入って来ないと思われます。現場は、自分たちの身を守ることが第一ですので、報告どころではないでしょうし、建物が被災したり、通信手段も寸断されたりしているかもしれません。

被害の全貌と詳細を正確に把握することなど望みようもなく、一方、津波等が襲い掛かるまでに時間的な余裕がない、そのような不確実かつ切迫した状況で意思決定できるのはトップしかいません。また、最悪事態を想定し、積極果敢に実行に移すことが決断できるのもトップしかいないのです。不作為のまま徒に時間を経過させることは許されません。

中長期観点からの複合災害対策の必要性

マグニチュード7級の首都直下地震について、国の有識者会議の想定では、最悪の場合、死者が2万3000人、経済被害が約95兆円に上るとしています。ライフラインインフラの復旧も最短で数週間から数か月、鉄道停止や道路停止は改善するには半年近くかかるとしています。食糧をはじめとした物資不足が起きることも想像に難くありません。

BCPのスケールアップとプロアクティブ原則

現下の新型コロナウイルス禍や気候変動による風水害に加え、上記のような地震が複合的に起きたとしたら、貴組織の今のBCPは耐えうるのでしょうか。

今回の誤報のように大地震が来るかどうか疑わしいかもしれません。しかし、最悪の状況を想定して、抜本的なBCPの見直しに着手し、リスク回避のための必要な投資に着手するのも、やはり経営トップにしか意思決定できないのではないでしょうか。

プロアクティブ管理(Proactive Management)

プロアクティブ(proactive)とは、「事前に対策を講じるさま。積極的に促すさま」(出典:デジタル大辞泉 小学館)ということで、危機管理の観点からすると、災害の発災前の対応に焦点を当てます。(反対概念としては、リアクティブ(reactive)「反応する」(出典同上))

Proactive Managementは、「発災が確定する前に、未来に向かって行う対策」ですから、当然、空振りや失敗もあるわけで、むしろ、それを前提として許容しています。但し、過去事例の蓄積、問題点の抽出、根本問題の絞込み及び解決策の反映をすることとしています。

プロアクティブ原則を行う状況づくり

将来に向けた意思決定の確実性を高めるために、過去の対応事例を蓄積し、分析に活かすという考え方は、平時の経営マネジメントと同じです。平時の業務管理が、システムとして運営されているのであれば、危機管理においても、経営者を支えるブレーンと組織的運営を可能とするシステムが必要となります。

トップがプロアクティブ原則に基づく意思決定をするとしても、多くの場合、危機管理や災害対応の専門家ではないので、素人の「勘と度胸」でやれというのも無理があります。合理的かつ効率的な危機対応をするのであれば、ICS(インシデント・コマンド・システム)のような世界的な運営標準に関する知見をもち、多くの災害対応の経験をもつ専門家がサポートする必要があると考えます。

オオカミはそこまで来ている?

今回の緊急地震速報は誤報でであったかもしれませんが、もし、現実に起こっていたら、皆さまも、こうしてメルマガを読める状況になかったかもしれません。
「30年以内に70%の確率で起きる首都直下地震」と言われたのが、2013年12月で、それから既に、7年が経過しようとしています。オオカミはそこまで来ているかもしれません。

今回も、最後までお読みいただきありがとうございました。 

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