コラムCOLUM
HOME - コラム / 複合災害における「連携」のための3つのポイント

複合災害における「連携」のための3つのポイント

2020.07.29

日本防災デザイン代表の志村邦彦です。

コロナウィルス禍中の集中豪雨が様々な複合災害をもたらしています。復旧に尽力されている方々、また医療を始めとする関係機関の方々には、心からの敬意を表したいと存じます。罹患された方、被災された方には、1日も早い回復・復旧されますことをお祈り申し上げます。

今回は、複合災害だからこそ求められる「連携のあり方」について触れてみたいと思います。


株式会社日本防災デザイン 代表・志村邦彦
【プロフィール】2011年3月11日の東日本大震災を東京電力の執行役員として経験。災害時における効果的な組織体制づくりの必要性を認識し、当社を創業。

ビジネスを合理的に進める「連携」

最近のニュースの中に、コンビニ大手3社が、輸送手段の合理化をはかるために共同配送の実証実験を、「連携して行う」との記事がありました。

常に競争してしのぎを削る3社でも、現状の運転手不足や将来のサプライチェーン合理化のためならば、「連携もいとわない」ということなのかもしれません。

イノベーションを効率的に進める「連携」

今まさに、コロナウィルスのワクチン開発には、世界の研究機関や大学や政府機関までもが、製薬会社と「連携」しています。

オープンイノベーションということばが当たり前に使われる昨今、「連携のないイノベーション」のほうが珍しくなっているかもしれません。

複合災害に対応するための「連携」

災害対応で、ましてや複合災害となれば、対応事象の範囲が広がりますので、一般的には、できるだけ多くの関係機関が「連携すべき」ということになります。

「単独で戦う」ことと、「広い知見と技術を持ったチームで戦う」ことを比べれば、
多くの場合はチームで連携すべきです。

そのように大切な「連携」ですが、では、連携を効率的にすすめるにはどうすればよいのでしょうか?

「効率的な連携」のために絶対に外せない3要素

米国国土安全保障省では、「国家事態管理システム」(NIMS)※の中で、連携のための3つの基本要素を挙げています。それは、
1.通信及び情報処理の一元化
2.資源管理の一元化
3.指揮及び組織管理の一元化
です。
※National Incident Management System
「常に同じ情報を見て、お互いに持てる資源を有効に活用し、同じ目的意識で組織行動をしよう!」ということです。

当たり前のことが当たり前にできている? できていない?

「そんなことなら、今でもできています」というご意見と、「まだまだ、できていません」というご意見の両方があることは知っています。

そのチェックには、次の問いを検討してみてください。
1.災害発生中、常に情報を流し続けかつ共有しあえる通信手段及び情報システムが装備され、実際に運営されているか?
2.効率的な資源活用のために、資源は、標準化され、その取得・割当は共同化され、使用状況は追跡され、共有化されているか?
3.組織運営は、統一された用語で、標準化された組織構造で、共通意識の基で運営されているか?インシデント・コマンド・システム(ICS)がなされているか?

「連携」を難しくする要因

ビジネスの連携でもイノベーション開発の連携でも災害対応の連携でも、よく問題になることの一つとして「組織文化の違い」が取り上げられることがあります。用語の違い、仕事や打合の進め方の違い、優先事項の違い等々です。

文書化することで落ち着く「連携」

1970年代の米国森林火災対応でも、そのような組織間の不整合があり、そこから生まれたのがICSやNIMSです。したがって、「ICS、NIMSは連携標準」であるとも言えます。

多民族国家の米国ですので、日本のように以心伝心が効きにくく、「連携とはいかなることか」というのをきちんと書き示す必要が、背景としてあったと思われます。

このことは、災害対応だけでなく、ビジネスの連携やイノベーション開発の連携でも、「しっかりと文書化された協定書や契約書を取り交わすこと」が、失敗しないための条件とされています。

様々なレベルの「連携」を

複合災害が起きている今、また、今後も更なる複合災害の発生も懸念されます。従業員の生命・安全確保のためにも、事業存続のためにも、多方面、多機関との連携・協定等の締結を真剣に考える時だと思料いたします。

打合せレベルの連携、資器材を共同利用する連携、統合指揮体制をとり一元指揮をする連携等々、様々なレベルがありますが、まずは、「自組織だけの単独対応」の発想から、視野を広げることが大切です。そのことは、自組織のレジリエンスを高めるだけでなく、国家のレジリエンスを高めることに結びつくと信じます。

意外に多い「社内連携」の不備

最後になりますが、「過去の甚大災害から学んだ対応上の主な課題」の一つに、「自組織内での一体感、連携ができなかった」という調査結果があります。


※日本防災デザイン 『Seven Factors for Dysfunction & Seven Efficient Designs for Emergency Response』@2019

社外の多機関との連携も課題ではありますが、自組織の本社‐事業所(工場等)間での連携、事業所間どうしでの連携、親会社‐子会社間での連携等に問題があったという報告です。

この機会にもう一度、以下の観点から、自組織の災害対応方策(BCP等)もチェックしてみてはいかがでしょうか。
・通信及び情報処理の一元化ができているか?
・資源管理の一元化ができているか?
・指揮及び組織管理の一元化ができているか?
・それらが文書化されているか?

今回も最後までお読みいただきありがとうございました。  

【関連情報】日本一わかりやすいICSのコラム一覧

【第1回】インシデントコマンドシステムの概要・インシデントとは何か?

【第2回】オールハザードとは何か?

【第3回】インシデントの5タイプ

【第4回】インシデントが起きたら初めにやること①:まずは指揮者(Incident Commander)を決めよ

【第5回】インシデントが起きたら初めにやること②:被害状況を把握せよ

【第6回】インシデントが起きたら初めにやること③:「何はともあれ人命優先」が危機対応の最大原則

【第7回】インシデントが起きたら初めにやること④:メンバーのチェックイン、チェックアウト

【第8回】組織づくりの基本①:組織の機能の洗い出し

【第9回】組織づくりの基本②:モジュラー型組織

【第10回】組織づくりの基本③:スパンオブコントロール

【第11回】組織づくりの基本④:指揮命令系統の一本化

【第12回】組織づくりの基本⑤:災害対策本部(EOC)

【第13回】組織づくりの基本⑥:指揮と調整の違いについて

【第14回】インシデント・コマンド・システムにおける目標設定

【第15回】計画(IAP:インシデントアクションプラン)を立てる

【第16回】事態対処部門(Operations Section)の役割・組織編成のやり方

【第17回】現場指揮所と現場集結拠点を設置する

【第18回】災害対応の初動対応のあり方

【関連情報】ICSのセミナー情報

当社でも、今後のオールハザード(すべての災害)に対応する
インシデント・コマンド・システムに関するセミナーを実施しております。

情報はこちらをご覧ください。

【開催日】
 2020年8月26日(水)10:00~16:00

詳細はこちら↓ ↓ ↓
https://jerd.co.jp/academy/ics20200709/

share: facebook twitter google+ line