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【第15回:日本一わかりやすいICS講座】計画(IAP:インシデントアクションプラン)を立てる

2020.01.15

組織はつくれば良いものではありません。組織をうまく機能させるならば、どんな目的で・いつまでに・誰が・何をするのかを具体的に決めなければなりません。

つまりは計画を立てることです。

今回は、ICS(インシデントコマンドシステム)における計画(IAP:インシデント・アクション・プラン)についてのお話です。

IAP(インシデントアクションプラン)とはなにか?

IAP(インシデントアクションプラン)は、災害の収束に向けた当面の対応計画のことです。「当面の」と強調しているのにはちゃんと意味があります。それは、ICSが以下の2つのことを前提にしていて、計画を何度も作りなおすからです。

  • 災害の状況は時事刻々と変わる
  • メンバーは時間を区切って入れ替わる

第5回のコラムで述べたように、被害状況は時事刻々と変わります。被災者はいるかもしれないけれども、通信手段が途切れて連絡が取れないことだってあります。「まさかこのエリアでも被災しているとは思わなかった」ということが後から起こることもありえるのです。

そうなると、初めに立てたプランを全面的に見直さなくてはならないことだって十分にあります。被災状況が更新されるたびに、対応計画も常に新しいものにアップデートし続けなければなりません。

また、災害対応にあたるメンバーは、時間を区切って入れ替えをしなければなりません。何故ならば、車がガソリン補給なしで走り続けられないのと同じように、人間だってずっと動き続けていたらガス切れを起こすからです。メンバーの対応期間はきっちり決め、期間を過ぎたら他のメンバーにバトンタッチします。そのほうが合理的、効率的だからです。

そうなると、バトンタッチの際に引継ぎも必要になりますよね?

「今までの対応状況はこうでした。」
「いまの被災状況はこの通りです。」
「だから次にこの手を打ちます。」

このようなことを、バトンタッチの際に書面でもって引継ぎをします。計画を決めているからこそ、いざ実行に移した後の引き継ぎもできるようになるのです。

IAPはその後の危機対応のプロセスに大きな影響を与える

前回の目標設定のコラムで少しお話ししましたが、目標→戦略→戦術→計画と一連のプロセスは切っても切り離せない関係です。いくら精度の高い計画を立てたとしても、目標が曖昧ならば危機対応の本来の成果を出すことができません。(ICSでは、以下の図に示す「プランニングP」という枠組みに基づいて活動のサイクルを回していきます)

同じように、計画の立て方が間違っていたら、現場の指揮系統をうまく回すことができません。

IAPの中に盛り込む要素

IAPは無闇やたらに立てるというものではありません。IAPを立てるにあたっては、「ICS215」と呼ばれる型(フォーマット)に基づいて計画を立てていきます。テンプレートがあるので、ちょっと見ていきましょう。

  1. インシデントの名称
  2. 活動期間
  3. 担当する部門
  4. 担当するグループ
  5. 具体的な活動内容
  6. 活動のために必要な資源(必要な数・いま手元にある数・調達すべき数)
  7. 直属の上司
  8. 活動のために必要な特殊な装備等(ヘリなど)
  9. 活動場所
  10. 求められている到着時間
  11. 必要な資源のトータルの個数
  12. 手持ち資源のトータルの個数
  13. 注文が必要な資源のトータルの個数
  14. 計画の作成者

なお、ICSのフォーマットは、このフォーム215に限らず、基本的な部分はその体裁を残して、各組織の実情に応じてアレンジしてもかまいません。一方、「基本的な部分はその体裁を残して」と強調したのは、甚大災害などの場合、現場指揮者の指揮権を外部の人に移譲する際、外部の人が一目して状況がわかるような共通性を維持しておく必要があるからです。(この点は「業務の標準化」といいますが別の機会に説明しますね)

IAPの立て方

IAP(インシデントアクションプラン)は誰が・どのようなプロセスで立てるのでしょうか。

ICS(インシデントコマンドシステム)では、そこまで明確に決まっています。

IAPは誰の主導で立てるのか?

IAPは、対策立案部門の部門長が進行役となり、現場指揮者や出席者の合意を基に立案していきます。IAPを立てるにあたっては、組織の中の最高意思決定者も巻き込んでいきます。会社の中であれば、最高意思決定者は社長です。社長には対策立案会議にご出席いただき「ICS215」を中心とする情報をもとに計画の内容・方向性を審議してもらいます。

IAPはどのような流れで立てるのか?

IAPの審議・決定部分は、以下のようなプロセスを踏みます。(下図:「プランニングP」参照)

  1. 対策立案会議の準備
  2. 対策立案会議
  3. 当面の対応計画の準備・承認

IAPは多くの情報の集大成

IAPは上記の会議体で審議され決定されるわけですが、そのためには「初期状況の報告書」「設定目標」「組織図」「任務割り当てリスト」「通信計画」「医療計画」「安全計画」「現状の資源状況」等の情報収集がそれぞれのフォーマットにより行なわれ、その時点での最新情報に基づいて、戦略会議が開かれ、戦術会議が開かれ、対策立案会議の準備段階まで行くわけです。(下図:「プランニングP」参照)

つまり、インシデントに関するその時点のさまざまな最新情報が集約された上で、戦略会議、戦術会議で練り上げられた計画(目標達成手段)案が対策立案会議にIAP案として出されることになります。

決定されたIAPは部門ごとに区分けして配布(配信)

先ほども申し上げたように、IAPは一度たてたら終わりではありません。「計画通りに動いてみた結果としてどうだったか?」を評価します。その評価結果に基づいて、新たにIAPを作りなおすのです。

だから決定されたIAPは、「新たな設定目標」「新たな組織図」「新たな任務割り当てリスト」「新たな通信計画」「新たな医療計画」「新たな安全計画」「新たな資源配分」等として、それぞれのフォーマットによりそれぞれの担当部門に一斉配布(配信)されます。

短い時間で、自分たちのやるべきことを理解するには、決められたフォーマットで情報共有することは有効です。その新たな計画をやってみたらどうであったかは、またそのフォーマットで報告され、次なる新たなIAPづくりの最新情報になります。

企業にお勤めの方ならば、PDCAサイクルというものを聞いたことがおありでしょうね? 業務の改良・改善活動でよく使われるサイクルのことです。

  • IAPを立てる(Plan)
  • 実行する(Do)
  • 評価する(Check)
  • IAPを立て直す(Action)

IAPのサイクルは、まさにPDCAサイクルに近いですよね。PDCAサイクルとは違いますが、ICSにおいても「プランニングP」という形で、こうした活動サイクルが決められているのです。

「プランニングP」は、ICSにおける活動プロセスそのものを定義したものです。プランニングPについては、別の機会で詳しくお話しさせていただきますね。

「うちの会社はそこまで必要ないので、、」 それって、ほんと?

ここまでのお話をすると、「いやいやうちの会社はそこまでする必要がないので、、」「消防とは良い関係なので、何とかしてくれますので、、」というお話をよく聞きます。

本当にそうでしょうか?南海トラフ地震や首都直下型地震の発生が予想され、近年テロ災害の懸念も言われています。そんな中、消防業務を司るほとんどの市区町村の条例には、「災害時は、一般市民の対応を優先する」と記載されています。

消防や警察・自衛隊の公助をあてにしても、企業には手が回らないことが想定されます。災害発生からしばらくの間は、災害規模が大きければ大きいほど、「自助」で凌ぐ(しのぐ)時間が長くなることは、ご理解いただけると思います。

甚大災害時の選択肢は少なく、結果責任は重い!

3.11東日本大震災の時もそうでしたが、今後起こるかもしれない大震災、テロ災害、有害物質事故災害等でも、最高意思決定者(社長、工場長、支店長、支社長等)の意思決定は、究極的には、「その場にとどまり業務を継続させるか」「その場を全面撤収して代替機能を他所に移すか」の2択のどちらかに帰結すると思われます。大きな決断です。

しかも、その中で「人命の安全確保」「事態の鎮静化」「財産・環境の保全」が求められるのです。(コラム第6回「LIP」参照)

ここで的確な意思決定ができなかったり、懈怠があって、悪い結果となれば、その責任が問われたり、厳しい社会的非難の的(まと)となるのです。すべては結果責任なのです。
そんな重大な決断を、十分な情報もなく短時間で決断するよう最高意思決定者に迫ることに合理性があるとも思えません。

目標や計画の共通認識

また、最高意思決定者や現場指揮者が、とても大きな方向性を決断したとしても、「情報の収集」「状況認識の共有」「目標の共有」「戦略・戦術の考察」「目標達成手段の策定」のプロセスのどこにも参画しなかった社員たち(なにをやるべきかを全く知らない社員たち)の集まりが、組織として効率的な災害対応を実践できるとも思えません。

サイズアップの段階から、各種のフォーマットに基づき、情報を収集し、目標を決めて、その達成のための戦略・戦術を考えて、目標達成の手段を計画し、現場指揮者がそれを実践し、その結果をフィードバックしていく。このプロセス(目標や計画の策定過程)を共有し共通認識ができていれば、一人ひとりの社員が自分のやるべきことが見え、一致団結した行動に取り掛かれます。
それがICSなのです。

文責: 志村邦彦

ご質問・お問合せ:shimura©jerd.co.jp  (©を@マークに変えて送信ください)

日本一わかりやすいICSのコラム一覧

日本一わかりやすいインシデント・コマンド・システムのコラム一覧

【第1回】インシデントコマンドシステムの概要・インシデントとは何か?

【第2回】オールハザードとは何か?

【第3回】インシデントの5タイプ

【第4回】インシデントが起きたら初めにやること①:まずは指揮者(Incident Commander)を決めよ

【第5回】インシデントが起きたら初めにやること②:被害状況を把握せよ

【第6回】インシデントが起きたら初めにやること③:「何はともあれ人命優先」が危機対応の最大原則

【第7回】インシデントが起きたら初めにやること④:メンバーのチェックイン、チェックアウト

【第8回】組織づくりの基本①:組織の機能の洗い出し

【第9回】組織づくりの基本②:モジュラー型組織

【第10回】組織づくりの基本③:スパンオブコントロール

【第11回】組織づくりの基本④:指揮命令系統の一本化

【第12回】組織づくりの基本⑤:災害対策本部(EOC)

【第13回】組織づくりの基本⑥:指揮と調整の違いについて

【第14回】インシデント・コマンド・システムにおける目標設定

【第15回】計画(IAP:インシデントアクションプラン)を立てる

【第16回】事態対処部門(Operations Section)の役割・組織編成のやり方

【第17回】現場指揮所と現場集結拠点を設置する

【第18回】災害対応の初動対応のあり方

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