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【第5回:日本一わかりやすいICS講座】インシデントが起きたら初めにやること②:被害状況を把握せよ

2020.01.05

さぁ、前章までで指揮者が決まりました!

ここからは、あなたが現場指揮を担う指揮者だと思って、話を真剣に聞いてくださいね。災害の現場に当事者が2人以上いた時点で、誰かが指揮者になるのです。

指揮者が初めに行うべきことは、被害状況を把握することです(「サイズアップ」と言います)。今回は、サイズアップについて詳しくお話しいたします。

被害状況の把握(サイズアップ)とは何か?

「サイズアップ」とは一体なんのことでしょうか?この言葉を聞いても、なかなかピンと来ない人が大半ではないでしょうか?

サイズアップを直訳すると、「サイズ(大きさ)を拡大する」です。サイズアップをICS(インシデント・コマンド・システム)で定義するならば、「被害がどこまで拡大したのかを把握すること」です。

たとえば、火災の現場を想像してみてください。その火災がキッチンで起こったものだとしたら、火元を消したら収まるものでしょうか?あるいはリビングまで燃え広がっているものでしょうか?はたまた、その家だけでなく隣の家まで燃え広がっていきそうでしょうか?

このように、「キッチンから火が出た」という現象ひとつをとっても、建物の形状やその時に吹いている風の強さなどによって、被害がどこまで拡大するのかは異なります。そして、被害状況しだいで、沈静化のためにどれくらいの人員が必要か、沈静化までにかかる時間がどれくらいかは異なるのです。

ICS(インシデント・コマンド・システム)は、標準化されたシステムなので、被害状況に応じた具体的な目標設定を行います(目標設定の詳細は次章にて解説します)。目標を立てるにあたっては、インシデントによる被害がどこまで広がったのかは真っ先に把握する必要があるのです。

被害状況の把握(サイズアップ)は2ステップで行うべし

サイズアップは、以下の2ステップで行います。

  1. まずは目の前で起こっている被害の状況を把握する
  2. その被害がどこまで広がっていきそうかを推測する

そして、サイズアップができて、初めて具体的な目標が設定できるのです。上記の2ステップについて、詳細を説明していきましょう。

ステップ①:いま目の前にある被害状況を把握する

まずは、目の前で何が起こっているかを把握する必要があります。先ほどの火災の話で言うならば、何はともあれ、目の前の火を真っ先に消さなければなりません。となれば、まずあなたは「119」に通報しますよね。

では、119番通報をしたとしましょう。電話越しで消防士に何を言いますか?自分以外の誰かに伝えるに当たり、ちゃんとした原則があります。

  • 目に見えた通り
  • 耳に聞こえた通り
  • 身体に感じた通り

上記のことをそのまま伝えるのです。これは何も、火災に限った話ではありません。全ての災害(オールハザード)の状況において、この原則が当てはまるのです。

もし大きな音が聞こえたならば、「ドーンという大きな音がしました」と聞いたままの情報を伝えてください。聞こえたものに対して、個人の主観や思いつきを入れないことです。

インシデントが起こったならば、まずは目の前で起こっていることを「見たまま」「聞いたまま」「感じたまま」で把握し、(必要に応じて)報告するのです。

ステップ②:その被害がどこまで広がっていきそうかを推測する

次に行うのが、被害がどこまで広がっていきそうかを推測することです。これがサイズアップの真髄であり、ここまでできて初めて現実的かつ具体的な目標設定ができるのです。

もしあなたの家のキッチンで起きた火災ならば、その火災はあなたの家だけで済むものでしょうか?あるいは、隣の家まで燃え広がっている可能性はないでしょうか?もし火災がマンションで起きたものならば、そのマンションの住民全員に避難指示を出さなければならないかもしれません。

火災ひとつを取ったとしても、被害がどこまで広がっているかはケースバイケースなのです。被害がどこまで拡大するのかに応じて、取るべき対応(必要な人員、物資など)が変わってきます。

サイズアップはインシデントの規模が大きいほど重要視される

「たかが火災で大げさな・・・」だなんて思わないでくださいね。

先ほど、インシデントの5タイプについて話しましたが、インシデントのタイプが1に近づくにつれて、サイズアップの重要性は増してきます。それを顕著に物語っているのが、2011年の東日本大震災ではないでしょうか?あれほどの被害が出ることを、発災直後にどれだけの人が想像したでしょうか?

福島県、宮城県、岩手県、東北3県で甚大な被害を出しましたが、発災当初は被害状況を正確に把握することができない状況でした。被災地で災害対応に当たっていた人たちも、どこでどれくらいの被害が出ていて、何人が救援を必要としているのかを正確に把握できなかったようです。そもそも、通信手段が途絶えていて、被害を誰かに伝える手段すらなかったようです。

政府としても、どこでどれくらいの規模が発生しているのかを正確に共有できず、支援をするにしても、どの地域に、どれだけの人員、物資を送ればよいのかが分からず、対応は後手に回るばかりでした。

東日本大震災のときのように、報告が上がってこない場合には、報告ができない状況にあるのかもしれないということも、サイズアップの推測の中に含まれるのです。

被害状況を正確に把握することは、こうした規模の大きいインシデントほど重要になります。サイズアップは、インシデント発生後の被害を最小限に食い止めるに当たっての優先的にやるべきことなのです。

文責: 志村邦彦

ご質問・お問合せ:shimura©jerd.co.jp  (©を@マークに変えて送信ください)

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【第1回】インシデントコマンドシステムの概要・インシデントとは何か?

【第2回】オールハザードとは何か?

【第3回】インシデントの5タイプ

【第4回】インシデントが起きたら初めにやること①:まずは指揮者(Incident Commander)を決めよ

【第5回】インシデントが起きたら初めにやること②:被害状況を把握せよ

【第6回】インシデントが起きたら初めにやること③:「何はともあれ人命優先」が危機対応の最大原則

【第7回】インシデントが起きたら初めにやること④:メンバーのチェックイン、チェックアウト

【第8回】組織づくりの基本①:組織の機能の洗い出し

【第9回】組織づくりの基本②:モジュラー型組織

【第10回】組織づくりの基本③:スパンオブコントロール

【第11回】組織づくりの基本④:指揮命令系統の一本化

【第12回】組織づくりの基本⑤:災害対策本部(EOC)

【第13回】組織づくりの基本⑥:指揮と調整の違いについて

【第14回】インシデント・コマンド・システムにおける目標設定

【第15回】計画(IAP:インシデントアクションプラン)を立てる

【第16回】事態対処部門(Operations Section)の役割・組織編成のやり方

【第17回】現場指揮所と現場集結拠点を設置する

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