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復旧時間の見通しをどう広報すべきか?災害対応とその広報のあり方について

2019.09.17

先週の台風15号の後、千葉県を中心に大規模停電が発生し、当初の復旧見込みを大幅に超える事態が発生しており一日も早い復旧をお祈り申し上げます。

さて、今回の日本防災デザインでは、「ICSから見る災害復旧と広報のありかた」と題したコラムをお届けします。

今回は、台風後の停電の復旧見込みを大幅に超えてしまったことが大きな社会問題化となってしまいました。

単に「見通しが甘かった」というだけでなく、「災害対応とその広報のあり方」という観点から、どのようなことに留意すべきかを考えてみます。

今回の停電の事実に基づく詳細な原因分析は、別途、事故報告書としてまとめられると思います。

今回はICS(インシデント・コマンド・システム)の視点から、
『全ての企業に共通して押さえておきたいポイント』をお示しいたします。

参照:インシデント・コマンド・システム(ICS)とは何か?

「見通しはたっておりません」と答えておけばよいのか?

今回のような事案の場合、「復旧の見通しはたっておりません」や、「余裕をもって遅い復旧日時を発表する」というのは、あまりにも短絡的な発想です。

災害発生初期に復旧見込みを発表することは、極めて難しいことではあります。
一方、その時々のわかり得る範囲で、正直に見通し(事実:FACT)を示すことは、企業の社会的な責任であり、使命であると考えます。

発生初期における復旧見通発表の難しさは、台風に限らず、あらゆる自然災害や事故(オールハザード)における、「災害対応と広報のあり方」に通じるものと思います。

また、電気事業者に限らず、あらゆる企業や組織・団体にも通じるものと思います。

こうした場合、どのようにするのが良いのでしょうか?

ICSを活用して考えてみたいと思います。

見通しを示す前に留意したい7つの視点

ICSにおける災害対応の標準的な主な手順に従い、7つの視点を挙げてみます。

■1.現場指揮者の尊重
ICSでは、どんなに小さな事象の発生でも、必ず現場指揮者を立てます。

現場指揮者には現地の状況に応じた戦術を展開する指揮権を付与します。

復旧見込みに関しても、現場を一番よく知る現地での責任者の意見や主体性を尊重することは、重要なポイントです。

■2.被害状況の確認(サイズアップ)
ICSでは、現場指揮官が最初にやるべきことは被害状況の確認(サイズアップ)です。

現場の被災状況、道路・交通事情(重機搬入の可能性含む)、
被害予測を含む今後の拡大見込み等を調べることです。(被災状況の把握方法については別途説明する機会を作ります。)

この初動のサイズアップ情報を基に、「目標」「戦略」「実行計画」の策定および「広報活動」が展開されますので、サイズアップを適切かつ十分に実施しておくことが重要です。

■3.状況認識の統一
ICSでは、サイズアップで得られた情報を分析(インテリジェント化)し、災害の規模、深刻さの程度、および性質(有害物質の有無)、今後の見通し等を判断します。

その判断された被災状況について、現場第一線と災害対策本部の間で十分な認識の共有化をはかっておくことも重要なポイントです。

■4.当面の対応計画の設定
ICSでは、インシデントの発生から、比較的早い段階で、関係者の合意に基づいた目標設定をします。

その目標に照らして、達成するための組織編制や資源配分の方針を決定します。

ただし、関係者内で立てる「復旧目標」と、対外的に広報する「復旧見込み」(後述)は異なるものです。
その辺を混同しないことも大切です。

■5.包括的な資源管理
ICSでは、目標達成のために、
・現在投入されている資源
(人、資器材および施設等)、
・今後投入すべき資源、
・調達状況、
・発注した資源の調達見込み 等

を把握(トラッキング)し、対応計画に反映することとしています。

さらに復旧見込みについても、十分な資源管理のデータに基づいて想定するということも重要なポイントです。

■6.対応計画の策定と復旧見込み
ICSでは、サイズアップ情報、資源情報、その他一般情報(気象・気温、海象等)を総合的に判断して当面の対応計画(IAP:インシデント・アクション・プラン)を策定します。

そうした総合的な判断の上で、復旧の見込みを出します。

復旧見込みがそのようなプロセスの最終段階に出されれば、見込みの精度も増すと思われます。

■7.広報内容の確認
ICSでは、現場における広報活動を行う際は、必ず、現場指揮者の承認をとることとされています。

災害対策本部におけるプレスリリースだとしても、発表前に、現場状況を一番良く知る現場指揮者への内容打診もしくは確認及び承認を得ておくことは大切なポイントです。

以上がICSから見る
「災害復旧と広報のありかた」7つの視点です。

本論は、一般的な企業の防災対策のあるべき姿に照らし、復旧見込みを含む広報活動の留意点をお示ししました。

冒頭に申し上げた通り、
災害発生初期に復旧見込みを発表することは、極めて難しいことです。

このようなICSの視点も踏まえて
今後の皆様の防災対策を考える上でのご参考となれば幸甚です。

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