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複合災害列島における自助、共助、公助の在り方とは?

2020.11.13

菅首相が11月2日に、9都県市合同防災訓練で、「自助、共助、公助」の話をされました。このことばには、「社会保険や福祉」もしくは「経済」の観点からは、いろいろな議論があるようですが、「防災」の観点からすれば、発災時には、まずは自分の身を護り、次に、仲間やご近所で助け合い、最終的に公的機関の支援を受けるのは、当たり前のプロセスです。

大切なのは、自助、共助、公助をどう連携して、相乗効果を発揮するかです。

今回は、「自助、共助、公助を具体化して、それを活かすポイント」について触れてみたいと思います。

株式会社日本防災デザイン 代表・志村邦彦
【プロフィール】2011年3月11日の東日本大震災を東京電力の執行役員として経験。災害時における効果的な組織体制づくりの必要性を認識し、当社を創業。

国としての「危機対応モデル」が浸透していない証(あかし)?

むしろ首相が「自助、共助、公助」を、あえて言わなければならないのは、その一連の流れに関するやり方や役割分担、つまり、国としての「危機対応の標準モデル」が、実質的には国民に浸透していないことの証という見方もできます。

国民目線の危機対応基準(モデル)のない日本

このように書くと、日本のお役所の方は、「災害対策基本法と地域防災計画があり、諸条令で完璧に書かれている」と言われます。しかし、災害対策基本法(117条)、東京都の場合、東京都の地域防災計画だけで2,000頁を超える文書、更に区市町村の地域防災計画をもあります。

それに、国民保護法(194条)、東京都国民保護計画(271頁)、更に区市町村の国民保護計画を読んで、災害対応、テロ対応にあたる都民が何人いるでしょうか?

他の道府県も同じです。国と自治体の役割分担のための文書で、国民の目線では書かれてはいません。

国民目線で危機対応標準(モデル)が示されている米国

一方、米国には、危機対応における「国家目標」が決められ、その達成の「方法論」が示され、「合衆国の支援」が明示され、「州・地方政府等との多機関連携方法」が定められ、「各種演習・訓練のカリキュラム」と「評価方法」「改善提案方法」が示され、「その教育を提供・実施する体制」が確立しています。

Web上でFEMA(米国緊急事態管理庁)のサイトに入れば、上記が、誰にでもわかるように書かれており、無料でe-learningを受講でき、受講証明書も発行されます。当然、「公助、共助、自助」がどのように行われ、個人として何をするのかが学べます。

チームプレーでは、日本は米国に負けている懸念

残念ながら、日本国民は、一般的に「自助、共助、公助」が何なのかさえもよく理解していません。どこまでが自助で、共助とは何をして、公助とは何をしてくれるのかがはっきりしないと、動きようもありません。それぞれが思いつくままにばらばらに動くのと、予め決められたとおりに一致団結して動くのでは、効率性が違うことは明らかです。

日本の場合、米国と比較すると「個人としての能力は高くても、集団としての効率性は低い」という現象が起きていることが懸念されます。

コロナ禍でわかった2つのこと

今回のコロナ禍でわかったことは、次の2つです。

1.デジタル化が、国の発展をけん引すること

テレワークを中心とする働き方の変化に見られるように、新たなデジタル技術が生活様式を一変させ、「今後、国の発展はデジタル化がけん引するであろう」ことを、多くの方々が、体感されたのではないでしょうか。

最初は、テレワークやWeb学習がよくわからなかったものの、やってみたら、新しいやり方は、それなりに合理性や納得性があって、「あたり前の働き方の一つ」として定着しつつあります。いわゆるゲームチェンジが起きつつあります。

そして、気が付いてみたら、身の回りのほとんどが海外のサービスと製品に囲まれていたのです。

一気に広まったテレワークでは、「外国製の会議システム」で、「外国製のOS」が搭載された「外国製のPC・タブレット・スマホ」で打合せをして、「外国製の検索エンジン」で情報収集して、「外国製のSNSで情報発信」し、「外国のネット通販業者」から資材調達をしているのが、多くの日本人の実情です。危機感をもたれた方もいらっしゃったと思います。

2.「アフターコロナの災害復旧」と「国の発展」がシンクロすること

東日本大震災からの復旧が日本の経済に大きく関係してきたことは、言うまでもありませんが、「アフターコロナの災害復旧」と「日本経済の今後の発展」は、更に密接に関係し、そのキーワードは、「イノベーション」だと言われています。

今回の「復旧」とは、元と全く同じ姿にもどることではなく、「新結合(イノベーション)」による新たなビジネスモデルの世界に入っていかなければ、企業は生き残れないとさえ言われています。

非対面、非接触という観点から、各種サービスがWebにシフトし始めているように、IT、IoTや技術革新により、既存ビジネスの陳腐化や消滅はすでに始まっています。また、オンライン診療のような新たなビジネスモデルが恒常化、本格化しつつあります。政府の動きもDXの提唱はもとより、デジタル庁の新設とか大胆な行政手続きの改変が着手されています。

そのような状況下で、イノベーションを「一社単独でやる」というのは、もはやナンセンスで、時間的にも、コスト的にも、ビジネスの拡張性からも、オープンイノベーションが主流となっています。

危機対応にも、デジタル技術導入とオープンイノベーションの流れは必至

この先、高まる自然災害やテロのリスクに対して、危機対応モデルにもイノベーションが求められ、新たなデジタル技術の導入が進むことは想像に難くありません。また、危機対応におけるオープンイノベーションとは「多機関連携」に他なりません。その流れにすすむことも不可避だと思われます。

国家レベルの危機対応の標準化の必要性

危機対応における新たなデジタル技術の導入もオープンイノベーションも、今のように都道府県単位、市町村単位、企業単位、地域コミュニティ単位でやっても、効果が薄いことは明らかです。国家レベルの連携の標準化が、いまこそ求められているのではないでしょうか。その動きは一部に現れはじめています。※

 (※今年7月に、自民党行政改革推進本部の防災体制見直しチームが、当時の菅官房長官に提出した提言の第一番目には「災害対応の「型」をつくり、全国で普及させる〈災害対応の標準化〉」と謳われています。2020年7月2日自民党ホームページより)

新しいデジタル技術も、「ベスト・プラクティスになるよう毎年見直しがはかられている危機対応の国家標準」(米国)と、「決まったやり方がなく、目的や目標が個別に異なる危機対応方法の集合体」(日本)のどちらに、適用しやすいかと比較すれば、前者であることは論を俟ちません。日本は、危機対応のデジタル化の潮流から取り残される懸念もあります。

国際的な観点からの「自助、共助、公助」

「自助、共助、公助」の考え方は、米国の国家事態管理システム(NIMS: National Incident Management Systemばかりでなく、ISO22320(社会セキュリティ-緊急事態管理-危機対応に関する要求事項)の中にも、同様の主旨のことが書かれています。

特に共助、公助については、状況に応じて、「統合指揮」「地域統合指揮」「多機関調整グループ」等の様々な階層で、民間セクター、NGO、州、連邦政府間の連携をはかることとされています。

日本は例外的

同様の標準は、ヨーロッパの先進諸国や豪州、ニュージーランド、中国、韓国、台湾等の国々では、制定されており、日本がむしろ例外的な存在となっています。

明確な国家標準がないことが関係しているのか、日本のBCP関係の書籍、ガイド等には、なぜか多機関連携に関する部分が極めて少なく、自社のサプライチェーンの維持、つまり「自助」ばかりが強く出ているように思われます。地域の復旧無くして自社だけの復旧はあり得ないのですが。

企業における「自助、共助、公助」

企業経営の観点からすると、首都直下地震、南海トラフ地震や地球温暖化による気候変動による自然災害の甚大化等のリスクを考えれば、複合災害が起きているこの日本列島において、「自助、共助、公助」に関する国家標準の策定を国任せにしておくだけでなく、共助についてどのように臨むかを主体的に検討しておくことは、企業の社会的責任であり、災害時に共助行動を発動すれば、ブランディングにもつながると考えます。

検討に際しては、インシデントコマンドシステムを含む米国の危機対応の体系を参照されることで、より具体的な考察が可能となります。また、災害対応のイノベーションを、ビジネスとして考える企業にとっては、いろいろなビジネスのヒントがあるのではないかと思料します。   

本日も最後までお読みいただきありがとうございました。           

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