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米国「国家準備システム」より

複合災害時代の危機対応システム
米国「国家準備システム」より

2020.10.22

日本防災デザイン代表取締役の志村邦彦です。

前回メルマガでは、米国の『国家準備目標』について述べましたが、多くの方にお読みいただくとともに、お問合せ、お申込等もいただきました。ありがとうございました。

今回は、前回メルマガに続いて、米国の危機管理体系の中心となる「国家準備システム」について触れてみたいと思います。

株式会社日本防災デザイン 代表・志村邦彦
【プロフィール】2011年3月11日の東日本大震災を東京電力の執行役員として経験。災害時における効果的な組織体制づくりの必要性を認識し、当社を創業。

「知らなきゃモグリ」にならないために

最近は、「災害対応はオールハザードの概念で」とか「インデントコマンドシステム(ICS)の原則で」とかのフレーズを、ネット上で目にすることが多くなりました。

そこには必ず「米国の危機管理システムにある」というような添え書きがあるのですが、でも、「この文面の作者は、本当に、米国の国家危機管理システムを知っているのかなぁ」と思われるような、こころもとない記述も結構あります。

分かっているか、分かってないかを試す質問は1つ

米国危機管理の全体体系が分かっているかどうかを試す質問は「国家準備システムを知っていますか?」です。

これから『国家準備システム』についてわかりやすく説明しますので、よろしくお付き合いください。それでは、壮大な米国危機管理体系へアプローチする「入り口の扉」を開けましょう!

国家準備システム(National Preparedness System)とは

国家準備システムとは、『コミュニティ全体のすべての人が準備活動を進め、国家準備目標を達成するための 組織化されたプロセス」のことです。

「コミュニティ全体」には、連邦政府、州、地方、都市、地域自治体、民間事業者、非営利団体、宗教組織等のすべての米国内の組織が含まれます。全米のすべての組織をカバーします。

『国家準備目標』と『国家準備システム』の関係

「何のことだかよくわからない!」という声が聞こえてきそうですが、前回メルマガに書いた『国家準備目標(National Preparedness Goal)』が、全米のすべての組織が目指すべき「危機対応の目標=準備をする目標」で、今回の『国家準備システム』とは、その目標を達成するために「どのようなやり方で準備するのか=準備をするシステム」のことを指します。

キーワードは、『準備(Preparedness)』です!

この後に出てくるTHIRAやNIMSやHSEEPやNational Frameworksなどの関連諸基準等に、「準備(Preparedness)」という語が、普通に出てきますが、大方その語の意味合いには、

国家準備計画か国家準備システムが含まれているという読み方をされたほうが、理解しやすいかと思います。

それだけ、国家準備計画と国家準備システムが、重要な意味合いを持っていて、米国危機管理体系の源のような位置関係にあると言えます。

国家準備システムの6つのステップ

「国家準備目標を達成するため」の国家準備システムですが、そのやり方は次の6つのステップとなります。ステップごとの概要と関連基準等をお示ししますが、なんと、ICSはでてきません! ICSはステップ3のNIMSの中の主要概念として包含されます。

ステップ1:リスクの特定と評価

まずは危機対応にあたって準備することは、潜在もしくは顕在する脅威と危険に関するデータを収集し、どんなリスクがあるのか評価します。

その際に利用するノウハウとしては「脅威と危険の特定とリスク評価(Threat and Hazard Identification and Risk Assessment(THIRA) 」を押さえておきたいところです。

ステップ2:求められる機能と計画要因の想定

次に、これらのリスクに照らして、最適に対処するためには、どの機能(capability)について、どの程度の対応が必要か(計画要因)を想定します。それにより、目標レベルを設定します。機能は前回のメルマガに添付した「ミッション領域別コア機能一覧」のとおりです。

コア機能(中核能力)とミッション領域については、「米国国家準備目標(NPG: National Preparedness Goal)」しっかり認識しておいてください。そこが評価基準作りの出発点になるからです。

ステップ3:機能実行体制の構築と展開

どのような危機対応でもリソースは限られるので、最高の機能を発揮するためには、共通の組織編制および共通の組織運営方法を展開し、できるだけ組織連携をするという思想です。。

ここに、「国家非常事態管理システム(NIMS: National Incident Management System)」が出てきて、「インシデント・コマンド・システム(ICS: Incident Command System)」はその中の基本概念として包含されています。(冒頭に書きましたネット上で、オールハザード概念やICSを謳う記事の中には、国家準備システムにおけるICSの位置関係をよく理解されているのか疑問になるものも散見されます)

ステップ4:機能の運営支援と連携の枠組みづくり

他の組織と連携をはかるには、計画を調整することや、役割分担が必要になりますので、「国家計画システム(NPS: National Planning System)」や「国家フレームワーク(National Frameworks; Prevention, Protection, Mitigation, Response, Recovery)」などの基準に準拠します。

ステップ5:機能の検証

諸活動が意図したとおりに機能しているかどうかを確認・評価します。演習、訓練を客観的に評価することで、計画と機能目標のギャップを特定し、ステップ6で必要な修正を加えます。

そこに登場するのが、「国土安全保障訓練・評価プログラム(HSEEP: Homeland Security Exercise and Evaluation Program)」で、この訓練プログラムや評価基準の原点になるのが、国家準備目標となります。

ステップ6:レビューと更新

すべての機能、リソース、および計画を定期的に確認および更新するシステムを制度として組み込みます。

要は「皆で力を合わせて頑張ろう!」という決め事

以上6つのステップと、関係する標準や基準をお示ししましたが、一件複雑そうですが、要は、「皆で、リスクを共有し、目標を共有し、達成手段・方法も共有し、資源も共有し、できるだけ多機関連携し、成果は客観的に評価し、改善していきましょう」という、単純なPDCAストーリーです。それを、国家レベルで、多機関連携を前提に展開するのが、国家準備システムだということです。

オープン・イノベーションかスタンドアローン・イノベーションか

今回の新型コロナウイルス禍により、産業構造は大きく変化し、生き残るためには、企業の規模を問わず大胆なイノベーションが必要と言われています。災害対応(回復)とイノベーションが大きく関連する時代にあって、米国では、オープン・イノベーションという言葉自体が死語化していると言われています。オープンでないイノベーションが考えられないからです。

多機関連携かスタンドアローンのBCP強化か

同様に、国家準備システムに見る災害対応も、前提としては、機関間の共通化、共有化、連携が前提になっていますので、企業も、地域社会も市町村も州も連邦政府もオープンな連携を前提に協調へのベクトル合わせに向かいます。自社単独のBCPがないわけではありませんが、日本の企業のように、スタンドアローンでのBCP強化が中心となることはありません。

自助・共助・公助は連携があって初めて国家的なベストプラクティスが形成されます。連携を前提とせず、各組織がバラバラに自助だけのBCPを強化しても、それは部分最適を強化することであって、国家的な全体最適の視点から見れば、非効率を生み出していることは明らかです。

世界標準に向けた災害対応システムのイノベーション

ビジネスにおけるイノベーションと災害対応(回復)が密接に関連する中、今回触れた国家準備システムのような世界の標準と比してみると、明らかに、オープンで連携することに、日本は遅れています。

甚大災害が迫るこの災害列島こそ、今こそ、危機対応システムについても、経済再生システムについても、政府、自治体、民間事業者、地域コミュニティ等、あらゆる階層における国家レベルでのオープン・イノベーションが求められているのではないでしょうか。

今回も最後までお読みいただきありがとうございました。

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