「災害発生はいつとしますか?」こんな単純な質問に皆さんはどのように答えますか?
「そんなの当たり前だよ、災害が起きたときに決まってるさ」と。そうかもしれませんね。
でも、あなたが、その災害が起きていたことを気付いてなければ、「災害はまだ起きていない」こととしてよいのでしょうか。実際の「発災」と「覚知」の時期には、往々にしてずれがあるのです。
今回のメルマガでは、この「発災」時期と、災害を認識する「覚知」時期と、災害対応に有効な「タイムライン」の関係を考えてみたいとおもいます。
インシデント・コマンド・システム(ICS)の定義の中では、インシデント(災害事案)に、自然災害、技術災害、人為災害(テロ等)、イベントも含めます。
当然オリンピック・パラリンピックもインシデントです。観客の混雑、交通渋滞、事故、炎天下の体調不良、テロの誘発等が懸念されるからです。
タイムラインとは何か?
タイムラインとは、その名の通り、時間の経過を表したもので、「災害対応の行動計画」です。
発災前と発災後の行動を時系列に沿って、いつ、何を、誰が、どうするかを、予め想定しておくことで、緊急時に効率的な動きができるようになります。
また、災害対応が終わった後に振り返ることで「災害対応実績」となります。
予想ができる場合のタイムライン
例えば、今年はいろいろあった台風ですが、現在、台風27号が発生し日本に近づきつつあると報道されています。本日時点で、既にインシデントとして「覚知」されています。
災害対応の「タイムライン」は、企業はもとより、最近は一般家庭でも作成することが勧められています。
台風などは、「覚知」されてから、自分の地域に来て発災するまでに時間的な余裕があります。
気象予報から台風の規模と進路がわかり、ある程度の被害も想定できるため、発災する前の準備や、発災後の対応は、タイムライン策定することでイメージできます。
オリンピック・パラリンピックなどのイベントもインシデントです。
人が集まる場所は、事件や事故が起こる可能性があるからです。
こうしたイベントは開催までに、時間がありますのでICSでは「熟考可能計画(Deliberate Plan)」として、
中長期の危機管理のシステムの中でタイムラインが作られます。
タイムラインの重要性とは?
一方、地震のような場合は、発災と覚知が同時になります。
地震予想に関する技術が進歩したとはいえ、発災する日時までは特定できないのが実状です。
あらかじめタイムラインを作って備えるとしても、その規模、具体的な影響、発災日時は、推定して作ることになります。
当然、「想定の域を出ない」のですが、想定タイムラインを作成しておくことは次の観点からの意義があります。
1 対応すべきことの明確化
対応すべきことを明確化することで、重要物品の管理・移動、必要となる機材や備品の手配、
備蓄品の充実等の必要性も見えてきます。
2 災害対応の関係者の明確化
3.11のような甚大災害のふり返りをすると、課題として「組織内連携の不足」が必ずでてきます。
予めタイムライン上で登場する組織や部署がどのように連携するのかを明確化しておくことが大切です。
3 作成者を含めた企業防災力の向上
災害を想定してタイムラインをつくる過程は、アスリート達が
イメージトレーニングをすることと同じです。
どのような展開になるかを想定することで、実際の場面に
遭遇しても落ち着いた行動ができ最善のパフォーマンス発揮に繋がります。
災害対応のタイムライン作成は、防災担当者育成における
重要カリキュラムの一つとなっています。組織内でタイムラインが
共通認識として確立されることで防災力の向上につながります。
発災し、後から覚知する際のタイムライン
有害物質の漏洩や、テロ行為などのインシデントは厄介です。
覚知されたときは、発災しており、発災からの時間の経過も不明だからです。
「何か臭い」とか「咳こんでいる」とか「人が倒れている」といった時には、
すでに有害物質がかなり拡散していることになります。
そのようなタイムラインは、覚知時点から逆算で発災時点を推定することになります。
また、本格的な対応は有害物質の同定(化学物質の種類を決定すること)がされてからになりますが、
それは消防や警察の特殊部隊の仕事になります。
タイムライン上では、通報を受けてから最初の30分になにをやるかがポイントとなります。
通報を受けてから発災時間の推定、安全離隔の確保、避難誘導、防護具の確保、物質の同定、ゾーニング、除染等々です。
(詳しくは弊社の危険物・テロ災害初動対応訓練 HAZMAT研修で説明しております)
以上、今回は「発災」と「覚知」と「タイムライン」の関係をみてきましたが、どのパターンでもタイムラインを作成しておくことは有効ですので、災害対応力向上の第一歩とて着手されてはいかがでしょうか。