台風15号にはじまる一連の災害で被災された方々にお見舞い申し上げます。
また、ボランティアをはじめとする支援に尽力されている方々には、衷心よりの敬意を表したいと存じます。
今回のテーマは、
「貴重な教訓を活かす」ための具体策についてお伝え致します。
災害経験を組織知として残しているか
最近の報道を見ると、政府、自治体をはじめとして「この災害で残された教訓を活かす取り組みが行われた」との報道が盛んに行われています。
しかしながら、教訓を活かし、それを組織知として残す術(すべ)については、日本ではあまり語られることもなく、3.11以降も、また、今回も、大切な視点が洩れているようにも思われます。
災害対応に特徴として、発災時降、次々と降りかかる課題、問題の処理に追われ、十分な記録をとる余裕もなく過ぎてしまうことが多々あります。
そうなると、対応の実情は対応した個人の経験知とはなっても、「組織知」としては残されなくなってしまいます。
数年後に、「その件は○○さんが担当していましたが、
現在は異動したので、詳しくは○○さんに聞いてみないとわかりません」というようなことは、どこの職場でもよくあります。
そこで、今回はこの「災害体験を活かす」ためには、具体的にどのような作業すべきかをインシデント・コマンド・システム(ICS)の観点から述べてみたいと思います。
2種類のふり返りプロセス
教訓を活かすとすれば、「実際に体験したことのふり返り」もしくは「総括」は必須です。
インシデント・コマンド・システム(ICS)では、発災後の経過について、主に2種類のふり返りの機会を設定しています。
1.プランニングP(災害対応PDCA)におけるふり返り
一つは、前回のメルマガでご紹介した、プランニングPにおけるふり返りです。
PDCAのサイクル期間
P:目標設定・計画策定
D:実施
C:実施内容評価
A:目標見直し・調整
における、CとAの部分が、「ふり返り」に相当します。
通常1サイクルが8~12時間でまわりますので、その引継ぎ時には、
・中長期的な大目標に関する対応状況の報告
・短期の担当期間(8~12時間)の目標に関する対応状況報告
・担当期間における安全確保に関する配慮状況報告 等
がなされます。
上記のそれぞれは、所定のICSフォーマットで
作成され、その報告内容に基づき、その都度、改良・改善がなされ、新たな対応目標、計画が策定されます。
その記録を蓄積しておくと、時系列順にどのような災害対応が具体的に展開されたのかがわかります。
2.アフター・アクション・レビュー(AAR)
アフター・アクション・レビューは、概ね、一つのインシデントで区切が付いた場合や、事態収束時点においてなされます。
テーマとすれば、次の項目が中心となります。
・そもそも我々の目的、目標は何であったのか?
・その目標に対し、 実際には何が起きたのか?
・なぜそうなったのか?
・どのように改善するか?
アフター・アクション・レビュー(AAR)の実施に
当たっての留意事項は、つぎの3点です。
1 当事者の肉声を聴く
2 評価をしない
3 必ず実施し、記録する
一つ目の「当事者の肉声を聴く」ですが、災害対応にあたった当事者が、原則的には、全員集められ、目的合理性や、目標と実績の乖離や、その原因を、当事者自らが
体験に基づき語り合い、当事者自らが改善策を考案することを、ICSでは求めます。
二つ目の「評価をしない」ですが、AARは、あくまでも当事者の主体的な発言を大切にしますので、階級、役職、年齢にとらわれず、自由闊達な発言を促すような、運営となります。上司は、役職位による指導・命令から、ファシリテーションによる自主的な改善への意識づけや目標達成意欲の啓発を促します。
ファシリテーターは、それぞれの行動の良し悪しを決めるのではなく、個々人の目標意識の啓発や、主体的な実績判断を促すことで、当事者意識を育てます。
そうすることで、参加者が、災害対応のあり方について、より深く考えるようになるとともに、同じ失敗を繰り返す可能性を下げることにも結びつきます。
3点目は、AARは事態収束までには、必ず実施され、アフター・アクション・レポートとしてまとめられます。
また、現場指揮者(IC:インシデントコマンダー)は、災害対応に当たる者の士気や目的意識が落ちていると判断すれば、適宜、AARを開催することもあります。
教訓を活かすポイント
以上の2つのふり返りプロセスを経て、必要において、インシデントに関する最終報告書や事態検証レポートが作成されます。
両方のプロセスで大切なことは、常に目標と実績の対比をしますので、常に、目標がしっかり定められている必要があります。
また、そのようなプロセスを実行することが定められた災害対応の標準運用基準(SOP:
Standard Operating Procedure)が整備されている必要もあります。
詳しくは、弊社のコンサルティングもしくはICS研修でお伝えしております。