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日本防災デザイン(JERD) 通信
【vol.7】 発行日:2019.10.18
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ラグビーワールドカップ日本代表は今月13日、A組最終戦でスコットランドに28-21で勝利。
史上初の8強入りに、ラグビーファンだけでなく多くの方がその快挙に盛り上がりました。
そこで、今回の日本防災デザイン通信では、「ラグビーW杯日本代表チームに学ぶ、
災害対応マネジメントの重要ポイント」と題して配信させていただきます。
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ラグビーと災害対応!?
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今回の内容に「なぜ、ラグビーと災害対応?」と思った方もいるでしょう。
災害対応のマネジメントシステムで知られるICS(インシデント・コマンド・システム)は、
1970年代に米国カリフォルニア州の山火事を契機として、広域災害発生時に、
消防・警察・自治体・軍をはじめとする複数の機関・組織が協働するためのシステムとして開発されました。
開発にあたり、軍隊の管理方式や企業のマネジメントはもとより、スポーツのマネジメントシステムも
参考としています。
ラグビーに限らず、ICSとスポーツの親和性は高く、ラグビーW杯日本代表の快挙から浮かび上がった、
「強い組織を作る」ための共通点を、クローズアップしてみます。
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ラグビーとICSの共通点
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今回の日本代表に関する報道で注目された、ヘッドコーチや選手の発言から、
・現場指揮と作戦本部を分離する
・試合前の全責任はヘッドコーチ(経営者)にあり
・キックオフ後の指揮権はキャプテンにあり
・キャプテンは交代しうる
・「ONE TEAM」としての結束
というような強い組織づくりのポイントを説明していきます。
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現場指揮と作戦本部を分離する
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ラグビーは、いったん試合が開始されれば、ハーフタイムを除いて、
最高指揮者のヘッドコーチと選手は、完全に分かれます。
ヘッドコーチは、グラウンドではなく観客席にいます。
それは、全体を俯瞰できることもありますが、
キックオフした後は、「選手たちがすべて決断する」
という考え方に基づいています。
ICSによる災害対応も同じです。
災害対応にあたる第一線現場と戦略を練る災害対応本部の
機能を分けることを原則とします。
発災した後は、「現場では、担当者たちがすべて決断する」
という考え方に基づいています。
ヘッドコーチは、目標はしっかり明示するものの、
グラウンド(災害現場)に立つ人たちを信頼し、細かい指示はせず、
個人の主体性に任せます。
日本代表キャプテンのリーチ・マイケル選手も
「選手の主体性を尊重する」と語っていますが、
現場優先の考え方はラグビーとICSの大きな共通事項です。
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全責任はヘッドコーチ(経営者)
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試合中は「すべてを選手に任せる」としても、試合前のチーム強化の権限と責任は、ヘッドコーチにあります。
日本代表を率いるジェイミー・ジョセフ ヘッドコーチは
「練習では一つひとつの課題に対して時間をかけて解決してきた」と語っています。
課題には、「徹底的にパワーアップする」、「状況判断能力を身につける」という観点から、
実戦的な練習を徹底して積み重ねてきたとも言われています。
スコットランド戦で2トライを決めた福岡堅樹選手が「日本ラグビーの
新しい歴史を作るために、「すべてを捧げてきました」と語っています。
指導陣は目標をかかげて、その達成のために、
細部までこだわり、徹底的に総合力を向上させる。
企業において、災害発生前の準備段階で、自社の災害対応力を強化することと、
それをどこまで徹底してやるかは、経営陣のリーダーシップと
意思によるのではないでしょうか。
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試合中の指揮権は、キャプテンにあり
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試合が始ると、瞬間的にゲームの流れは常に変わります。
状況に応じて、チーム一丸となって進むべき方向性を
指示するキャプテンの存在は不可欠です。
ゲームメークはキャプテンの意思を尊重して行われます。
練習中に、「状況判断能力を身につける」練習を重ねてきたとしても、
キャプテンを中心とする個々の選手が、「自分たちで責任をもって判断してよいのだ」
という意識がなければ、実戦での伸びやかなプレーには繋がりません。
ICSでも、現場第一線の主体性を尊重する観点から、現場指揮者を任命し、
現場対応の権限を委譲します。
また、現場組織を必要な機能ごとに明確に区分
(ディビジョン、ブランチ、ユニット等)して
編制することで、それぞれの部署(ポジション)における役割が
明確になり、個人は自分の役割に応じた適切な行動を自律的に
実践することになります。
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キャプテンは交代しうる
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サモア戦ではピーター・ラブスカフニ選手がリーチ・マイケル選手に
代わりキャプテンを務めました。
それに対してリーチ選手が「このチームは誰がキャプテンになってもおかしくない」と
語っていたのが印象的でした。
メンバー全員が、しっかりとしたミッションと目標を共通認識として持ち、
個人の役割と組織内の規範が確立されていれば、キャプテン(現場指揮者)は
交代しうるというのは、ICSでも同じです。
むしろ、「勝利」や「早期の復旧」のためには、キャプテン(現場指揮者)が疲れていたり、
パフォーマンスが上がらなければ、交代するほうが、合理的です。
ICSでは、災害対応の標準時間(通常8~12時間)を超える場合は、
現場指揮者であっても、交代することを原則として、
それに対する引継ぎ書式等を整備しています。
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「ONE TEAM」としての結束
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日本代表チームが掲げている「ONE TEAM」。
いろいろな国から様々な価値観をもった選手が「ONE TEAM」の
価値観で結束するという意味と、多彩な個性を持つ選手達を一つに
結束するという意味があります。
ICSでは、災害対応は、個人ではなく「チーム対応」を原則としています。
その運営も「多機関連携を基本」です。
多くの機関が集まり、それぞれの多彩な視点で戦略を検討することで、
戦術の幅も広がりますし、安全性や確実性も高まります。
高度な専門能力を有する機関が連携するほうが、
実効性が高まることも期待できます。
バックオフィス機能の共有化・合理化などで効率性を
高めることも期待できます。
日本代表がチームに多様性を受け入れることで強くなったように、
日本の災害対応でも、「ONE TEAM」の標語のもとに、
多様な機関が結束することを期待しています。
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10月20日準決勝へ
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以上、今回の日本防災デザイン通信では、「ICSによる災害対応と
ラグビー日本代表の快挙」との共通点を述べてみました。
いかがでしたか?
今回の日本代表の偉業は、選手一人ひとりの大変な努力の賜物であり、
ヘッドコーチをはじめとする指導陣の「リーダーシップ」と「強固な意志」
から創り出されたものでしょう。
台風19号で傷ついた日本に元気と勇気を与えていただき感謝します。
心からの敬意を表したいと思います。
来る10月20日(日)準々決勝の相手は、2度の優勝経験を誇る強豪南アフリカです。
前回大会で劇的勝利を収めたとはいえ、直前の強化試合では大敗しています。
日本代表が持ち前の結束力と個々人の多彩な能力をいかんなく発揮して、
新たな歴史を作ってくれることを期待いたします。