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BCPの実効性を高める初動対応 必ず押さえておきたい5つのポイント

2019.09.24

先々週の台風15号に続き、台風17号が発生し、九州や沖縄でも
多くの被害が起こり、今なお大規模な停電が発生しております。

一日も早い復旧をお祈り申し上げます。

さて、今回の日本防災デザイン通信では、「想定外の事態が起きた時の初動対応」と題した
コラムをお届けします。

さて近年、今回の台風のように災害が大規模化してきております。
また首都直下型地震や南海トラフ地震なども高い確率で起こると想定されています。

地球温暖化の影響もあってか、台風15号・17号にしても、
「台風として想定はしていた」にもかかわらず、
「想定外の威力」があり「想定外の被害」になったのではないでしょうか。

BCM/BCP(事業継続管理/事業継続計画)においては、
一定の災害を想定していますが、その災害が
「想定を大きく超える」ような甚大なものであったときには、
作成したBCPではなかなか実効性が上がらないことも懸念されます。

そこで今回は、インシデント・コマンド・システム(ICS)の観点から
BCM・BCPをより実効性の高いものにするための方策を、
考えてみたいと思います。

実効性のある初動対応を実現するには

そもそもBCMとICSは対立する概念ではありません。

BCMにおける4段階:

1:「発災前の防災及び減災段階」
2:「発災直後の初動対応段階」
3:「リカバリー段階」
4:「再開及び再生段階」

の段階の中で、ICSは2番目の「初動対応」に大きく関わります。

初動対応の判断を誤れば、2、3、4の全ての段階で大きな支障をきたし被害金額や復旧時間、復旧計画に大きく影響します。

そのため、当社でも多くの企業から、「自社で甚大災害が起きた際に、今のBCPで
実効性のある初動対応を打てるのだろうか」という声を頂きます。

そこで、今回はBCPに内在する「初動対応の柔軟性を阻むポイント」をお伝えするとともに、ICSから見た改善の方向性をご説明いたします。

柔軟な初動対応を阻む可能性のある5つのポイント

現在のBCPの規定を見ていきますと、
初動対応の柔軟性を阻む可能性のある5つのポイントが見えてきます。

ポイント1.
BCPにおける「対応災害」が限定されている点

ポイント2.
「被害程度」が予め想定されている点

ポイント3.
「災害対応者」が予め定められている点

ポイント4.
「現場対応部門と災害対策本部の役割区分」が明確ではない点

ポイント5.
「災害対応最前線の戦い方」が明確ではない点

などがあげられるのではないでしょうか。
これらをICSの視点から改善の方向性を考えていきましょう。

ICSの視点から見た改善の方向性5つのポイント

ポイント1.想定外の災害が発生した場合について

BCPの特質として、災害想定する際はその頻度と
影響度のマトリックスからリスク分析されます。

その中で自社にとって重要な災害について、
綿密な対応策を策定しています。
優先順位付けすることは合理性があります。
一方、想定対象とされなかった災害が起きた際の対応に混乱をきたす懸念が出てきます。

ICSでは、災害の80%は同じ方式で対応可能であるという前提があり、
オールハザード対応(全ての災害、テロ等)と言う概念を使います。

いかなる災害にも対応可能な方法論です。

想定外の災害には、ICSを活用することで、
今のBCPが一層強靭化します。

ポイント2.被害程度が想定外にまで拡大した場合について

BCPでは考えうる範囲での最悪な状況を前提とし、対策を考えることになっています。

しかし、想定していた以上(計画されていない程度)に、
甚大な被害を受けた場合は、考えていた策が効かず、なすすべがなくなる懸念があります。

また、想定していた災害対策本部の設営基準(震度、気圧、降水量等)を
下回る事象の場合で、本部は設立されないケースでも、
甚大な被害が発生し発展する可能性もあります。

ICSでは、被害程度に関わらず、どんなに小さなインシデント(事象)でも、
2名以上の人間が集まれば、現場指揮者(インシデント・コマンダー)を決めます。

規模の拡大とともに、現場指揮者(インシデント・コマンダー)は適切な人に引き継がれ、
発展的な組織編成の形を取ります。

災害対策本部も被災状況に応じて設立されていきます。

被害の程度が想定外に拡大したとしても、
現場の被害状況に応じて、組織も拡大していくという
ICSの考え方を取り入れれば、今のBCPが更に強靭化します。

ポイント3.災害対応者が定められているが、発災時は適任かどうかわからない

BCPでは、あらかじめ災害対策本部の組織やチームリーダー
および代替リーダーが定められています。

ところが、事案によっては定められたリーダーが必ずしも
災害対応の指揮命令をすることに適しているとは限らないのです。

ICSの場合は、現場指揮者(インシデント・コマンダー)に戦略
実施の全権限が委ねられます。

業務の専門性を持ち、かつ災害対応の経験や
訓練実績を持つ人が適切な現場指揮者となります。

例えば、化学災害の場合、工場長が化学のエキスパートでなく、
化学災害の経験もなければ、
ICSの場合、その事案にもっとも精通した人で、
災害対応の経験や資格を持った人が、平常時の役職を飛び越えてリーダーになることもあります。

組織は、モジュラー型組織編成の考え方で災害の程度に応じて、
弾力的に拡大・縮小をしていくような組織編成をとります。

ポイント4.現場と災害対策本部の区別ができていない

BCPでは災害対策本部の設置を明確に謳っていますが、
現場第一線の指揮所との区分はされていません。

ICSでは、現場第一線となる事態対処部門(Operations Section)と、
災害対策本部の役割区分を明確にしています。ここがBCPと大きく違う部分です。

まず、それぞれの役割の違いを見ていきます。

●事態対処部門の役割とは

1:現場での応急対応
2:状況把握・評価(Size up)
3:全ての戦略の実施する

の3つです。

1つ目の「現場での応急対応」とは、
「救助する」「捜索する」「消火する」「治療する」等を意味します。

2つ目の「状況把握・評価(Size up)をする」は、
現場の被災状況、道路・交通事情(重機搬入の可能性含む)、今後の拡大見込み等を調べることです。

この初動のサイズアップ情報を基に、
「目標」「戦略」「実行計画」の策定および「広報活動」が展開されます。

3つ目の「全ての戦略の実施する」とは、
直接的に現場第一線で戦略や作戦の実行をします。
実質的な対応はすべてここで行われます。
中心的な役割を担う事態対処部門をどのように編成するかにより、
災害対応の実効性の良否に繋がります。

●災害対策本部の役割とは

1:情報の収集・集約、情報の共有化
2:情報の意味付け、優先順位づけした目標・計画を策定
3:適切な資源配分の実施
4:上記を円滑に進めるための情報・通信手段の確保
5:広報活動

以上の5つの点が災害対策本部の役割となります。

調整を担う災害対策本部が、現場指揮をとることはありません。
あくまでも現場第一線を支援する役割となっています。

災害対策本部と事態対処部門を例えていうと、
スポーツにおける「監督」と「プレイヤー」のようなイメージをしていただくと良いと思います。

実効性の高い初動対応を行うには現場のプレイヤーの
「事態対処部門」が主体的に行動し、監督である「災害対策本部」が支援する必要があるのです。

そのため、プレイヤーが迅速な対応ができるように、
監督は全体を俯瞰し、「人・もの・金」を揃えて、前線に送り出すわけです。

災害対策本部と事態対処部門の役割がごっちゃとなってしまいますと、
現場は混乱してしまいます。

ポイント5.災害対応最前線の戦い方は明確にされていない

BCPの中では、初動対応における
「What 何をするか」を定めているが
「How どうやるか」については不明な部分があり、
ICSの観点で補足的に見ていく必要があります。

BCPでは、発災後の最前線の組織編成にふれていません。

ICSでは発災時の最前線の組織編成については、
「事態対処部門」としてその中を「機能別」「地域別」「ストライクチーム」
「タスクフォース」「専門家活用」というような編成の取り決めを定めています。

スポーツにおける、プレーヤーの「ポジション」にあたります。
ポジションごとの役割が明確になっています。

それぞれの組織の人員は、自分の役割とやるべきことが明確に理解し、
主体的に判断して行動できるようになっています。
災害と対峙する現場体制をしっかりと決めておくこともBCP強靭化のポイントです。

最後に

以上のような観点でBCPに内在する
「初動対応の柔軟性を阻むポイント」をお伝えさせていただきました。

昨今の災害対応において、この初動対応の良否が、
極めて経営に大きな影響があることが分かってきています。

改めて、BCPをICSの視点から補完していくことは参考になるのではないでしょうか。

これらの詳しい話は、下記のセミナーでもお話ししております。

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