
日本防災デザイン代表の志村邦彦です。
本日、政府が緊急事態宣言を延長するとの報道がありました。4月8日の緊急事態宣言から
3週間で、企業経営的な視点からどのような変化が起きてきているかを述べてみたいと思います。
■事業継続管理(BCM)施策の限界
前回のメルマガにも、書きましたが、今回の新型コロナウイルス禍については、全国に緊急事態宣言が出されたことにより、それまで事業継続計画として考えてきた各種の施策
・生産機能の移転・移管、
・サテライトオフィスの設置、
・他部門他事業所・関係会社からの応援、
・外部への委託 等
が、ことごとく功を奏さないか、実施が困難な事態となりました。
それでも通勤させなければならない場合を除き
大半の企業が、社員を在宅勤務とし、各人の自宅でテレワークをすることになりました。
■テレワークで見えた新たな課題
テレワークといっても、複数人でのメールのやり取りから、「Zoom」「Skype」「Microsoft teams」「webex」などのテレビ会議システムを活用するなど、それぞれの会社の、ネット環境やセキュリティシステムによって、まちまちのようです。
しかしながら、一つだけ確かなことは、オンライン(web)会議は盛んにおこなわれるようになったことです。
その結果として、今どのようなことが、企業内で起きていて、経営者は何を注意するべきなのでしょうか?
■その1 指揮命令系統があいまいになっていないか?
コロナウィスル禍の発生前でしたら、実際のオフィスで、リーダーが在籍しているのに、メンバー全員が席を立って会議室に行って、リーダー抜きで会議をすることは、よほどの事情がない限りあり得ません。
上記は極端な例ですが、オンライン会議では、そのようなことが起こりえます。声を掛けられない人は、会議があったことさえも知らないのです。
また、参加者だけで次回の打合日時を決めれば、会議の予定さえも知られることはありません。
他者を排斥したり、秘密裏に開催することが、意図的でないとしても、会議事態が公開されずに、一部の人達でどんどん進んでしまう可能性があることは否めません。
危機管理の観点からすれば、「まずは、指揮命令系統を確立する」ことが何よりも大切です。
会議は誰の指揮の下でどのような目的をもって何を決めるのかをはっきりとさせておく必要があります。
また、会議の成果は、常に災害対応にあたる組織内で共有されるべきであり、常に他部署、他部門との広い連携がとれているべきです。
果たして御社は、いま、どこで、だれが、どのような目的で会議をしていて、何をテーマに話し合い、その成果が何であったかを把握されているのでしょうか。
■その2 会議がモジュール化?
重要なことはオンライン会議をリアル会議と同様に運用してはいけないということです。
会議は本来5つのカテゴリーに該当します。
1:報告・連絡する(報告会議・営業会議)
2:意思決定する(経営会議)
3:アイデアを出し合う(製品開発・戦略策定)
4:合意形成する(決起会、年始会)
5:研修(トレーニング)
Web会議システムの場合、会議のテーマごとに、上記のどれに該当するのかを明確にし、目的を明確にして、実施することが大切です。
今までのリアルの会議のように、会議室に多くの人が集まって議論を交わすことができません。また、Web会議を長時間行うことは、とても疲れますので、当然、短時間で切り上げる必要があります。
そこで、重要なのは
・選ばれた人数
・テーマ数と内容は絞る
・短い時間
で実施することが望ましいと考えます。
その上で、「会議前の情報共有」「事前のすり合わせ」は今まで以上に重要となります。
一方で、会議で話し合うことが、「全体をカバー」するというより、「部分化」する傾向にあります。
それを、ここでは「Web会議のモジュール化」と呼ばせていただきます。
ちょっと難しい言い方ですが、「モジュール化」とは、組み立て部品化といってもいいかもしれません。いろいろな部品的な機能が集まって一つの製品やサービスを形作る際の、それぞれの構成要素のことです。おもちゃのレゴのようにパチンパチンと組み合わせれば、一つの製品が完成してしまうイメージです。
Web会議の特質から、会議そのものが、部分化、分散化、定型化したモジュールになりかねないという懸念です。
会議のモジュール化を否定するわけではありません。個々のモジュールそのものには大切な意味があって、他でも使えるかもしれませんが、それだけは完成品にはなりません。
決して「大多数」による「長時間の議論」を肯定するわけではありません。しかし、「全体最適」や「全体統合」のためには、誰かが、それらのモジュールを、組み合わせて一つのソリューションに導く作業をおこなうことが必要です。
■経営者の役割
いま、経営者は、次の事項に意を払う必要があります。
・自らの意思決定に資するすべてのWeb会議が、どこで、だれが、どのような目的で、
何をテーマに話し合い、その成果が何であったかを把握すること。
・それぞれの会議体が、実際にどのように社内連携して機能的に活動して、全体最適を
構成しているのかを確認すること。
会議のモジュール化は、今後のトレンドとして避けられないとするなら、それを前提とした事業運営を進める必要があります。
■今やるべきこと
今、各企業の中で、このモジュール化が、自然発生的に起きていて、これまでの会議体とは違った形での知的創造がなされているとすれば、経営者のやるべきことは、それをどのように束ねていくかではないでしょうか。
基本的な指揮命令系統については、既に各企業ともしっかりと確立されていますので、要は、非常災害体制において、「ぞれぞれのモジュールで実施されたこと、決定されたことをどのように、本社(災害対策本部含む)に情報集約していくか」、そのやり方(情報連携の進め方)を決めておくべきではないでしょうか。
■情報収集と政策立案の運営方法を決めておく
災害対応当の危機管理の場面では、このような各モジュールの活動を含めて、情報収集してそれに基づく意思決定を行う会議体の運営方法(プロトコル)を決めています。
具体的には、インシデント・コマンド・システムにおける「プランニングP」と呼ばれる概念です。
ここでは、災害対応の状況ごとに、「いつ、誰が集まり、どのようなテーマを議論するのか、どのようなことを決定するのか」が決められています。そして何よりも大切なことは、『そこで決まったことは、必ず、関連部署に通知する』ことが、通知用の様式(フォーマット)とともにきっちりと決められています。
今後も、災害対応においては、Web会議が有効な手段になることは間違いありません。その際に、上記のような留意点を考慮して、各社独自のプロトコル(運営の仕方、様式)を定めておいてはいかがでしょうか。