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東京電力ホールディングス株式会社 様

災害対応・指揮調整訓練(インシデント・コマンド・システム 初級)

顧客事例 - 東京電力ホールディングス株式会社様東京電力ホールディングス 経営技術戦略研究所
技術開発部 部長代理 本庄昇一 様

マニュアルにない想定外の災害対応への方向性が見えてきた

令和元年・台風15号での経験

東京電力の経営技術戦略研究所は、経営課題と技術課題を融合して、経営に対して将来どうするのかを提言し、将来に向けた技術開発をする組織です。

また、事業会社の課題を技術で解決する役割があります。東京電力ホールディングスの直下にある事業会社は、パワーグリッド、フュエル&パワー、エナジーパートナー等であり、それぞれの課題を聞きながら、技術支援を行なっています。

今回、危機対応の組織マネジメント理論であるインシデント・コマンド・システムの訓練を日本防災デザインさんにお願いしたのは、令和元年に起きた台風15号の被害から得た教訓を、今後の災害対応に活かそうと考えたからです。

※令和元年台風15号…令和元年9月9日に上陸した台風により、千葉県内で送電線が2本と推計2000本の電柱が損傷し、93万戸が停電した。被害が広範囲におよび停電解消に至るまで約16日を要した。

この台風は、今までと大きく違い、多くの樹木が倒れ、電線に引っかかることで電柱が損傷しました。電柱や電線を復旧させるには、倒れた樹木を切り、撤去しなければなりません。しかし、樹木には所有権があり、所有者の了解をとる必要がありましたし、撤去の仕方もその都度関係機関と協議しなければなりませんでした。それが、復旧までに時間を要した要因のひとつになりました。

復旧作業の現場で目の当たりにしたこと

他電力から電源車などの応援がありましたが、経営技術戦略研究所の保有車に加え、自動車メーカー各社からお借りした電気自動車(EV車)を計約70台、現地に派遣しました。先ほどの樹木などの倒壊で、なかなか電力が復旧しない地域がありましたので、電気自動車を出動させ、一般のお客様に電力を供給しました。

研究所のメンバーが、被災地まで運転していき、2泊3日で交代して現場の応援にあたりました。

そこで、我々が経験したのが、現地で「誰の指示に従ったらよいのかあいまい」になりがちという点でした。
現場の状況や要請は時々刻々と変化していくため、支援内容や対応方法が急きょ変更となることが多いのが実態でした。そのような中で、本店や現地統括拠点の判断を待たずに決定しなければいけない場面もあり、現場が持つべき意思決定権について明確に定めておかないと、現場の作業が滞ってしまうのです。

これは、東日本大震災後の、福島第一原子力事故の時でも起こっていたことでした。発災している中では現場で判断しなければならない事象も多く、非常事態下における本社と現場の意思決定のあり方がはっきりしていないと、現場はたいへん困惑するのです。

この課題は我々だけの問題ではありませんでした。他電力から応援にきていただいた電力会社さんも、応援体制はあるものの、現場の指揮命令が難しかったと聞いています。

また、リエゾン(災害対策現地情報連絡員)を各自治体に派遣して、住民の皆様のご要望を伺う態勢を取りましたが、災害の規模が想定よりはるかに大きく、行政や各機関と緊密に連携をとることの難しさを痛感しました。

マニュアルは備えてあったが、現場では想定外が起こる!

我々も様々な災害が発生した際には、「誰が何をやる」というルールと一覧表が定められており、それに沿ってやることになっていました。

しかしながら、発災した際に、現場にマニュアルに定めた責任者がいない場合もあります。令和元年15号台風のようにルールにないケースがどんどん出てくることも懸念されます。

日本防災デザインさんの「災害対応・指揮調整訓練(インシデント・コマンド・システム 初級)」のお話を伺った際には、まさに、ルールが通用しない想定外の災害現場で、どうやって指揮調整を行い、臨機応変に動くかがテーマでした。

それは台風のケースで実感していたところなので、大変に興味を持ちました。

また、日本防災デザインさんは、当社の原子力の福島第一・福島第二・柏崎の原子力発電所でも、これらの訓練を実施されておりました。改めて、未曾有の災害が増える中で、研究所のトップから直々に、この訓練を実施しようとの声が上がり、開催するに至りました。


講師の熊丸由布治

災害対応・指揮調整訓練を受けて印象的だったこと

印象的だったことは、「その場にいる人たちが責任をもって決める」という現場に指揮権があるというところでした。

本社からの指示待ちをするのではなく、自らが「何をするかを決めていく」という意識をもっていなければなりません。

災害対応するメンバーには、そうした権限や義務があると言っておかないと、権限者の指示を待たないといけないと思ってしまう。上の指示を仰がないといけないという硬直した考えが、災害対応を遅らせてしまうことがあります。

実際の災害ではなかなかできないので、研修を通じて訓練をすることが大事だと思いました。机上が中心でしたが、併せて実地ですることも必要だと感じました。

インシデント・コマンド・システムを学んでみて

今回、災害対応・指揮調整訓練ということで、そのベースとなるインシデント・コマンド・システムという考え方を学びましたが、実験室でも同じようなことがあると思います。

実際に実験室にも化学薬品があり、もし火災や事故が起きたい際は、まず、その現場の人が対応しなければならないわけです。

緊急時には、現場に指揮権があるという意識を、トップが持っていることがとても大切だと思います。さらに、その意識を組織に共有させることが重要で、今回の訓練も、まさにそのような問題意識をもって実施したものです。

災害対応に関して、トップ自らが、現場に指揮権を持たせるきだという部分があると組織全体としても腹落ちがするのではないかと思います。

顧客事例 - 東京電力ホールディングス株式会社様
実際に自らも演習に参加している本庄さん

訓練の感想

訓練に関して、講師の熊丸さんが熱意をもってお話をいただいて、こちらも熱く取り組むことができました。実体験を踏まえてお話いただくので大変に引き込まれました。また、受講生も熱意に応えようという気持ちが生まれて、一体感と緊張感のある研修だったと思います。

想定シナリオ演習もたくさんいれてありましたが、実践的な模擬ができたと思います。

講座の進め方も、双方向に討議をしたり、発表したりする内容でしたので、大変に活発な研修となりました。

想定演習では、研究所が取り扱う薬品のことも投げ掛けてくだり、日ごろの活動の中に潜む事象への問題意識を提示していただいたのも、大変によかった点でした。

インシデント・コマンド・システムが必要な組織とは?

今回、インシデント・コマンド・システムという概念をベースに危機対応の原則を学びました。

台風だけでなく、様々な災害が起こっている中で、地方自治体や、警察、消防、自衛隊、電力会社、通信、が入った時に、交通整理みたいなものを、どうやるかを社会として考えていかないといけないと思いました。

電柱が倒れた時も、電力だけでなく通信にも被害が及び、複合的になってきています。また、電気が止まると、上水の施設が止まるように、一つだけでは済まなくなってしまいます。

社会が複雑していく中で、どうやってマネジメントしていくのか、自分たちのルールだけでうまくいかず、自社のマニュアルだけは太刀打ちできない状態になってくると思います。

また、当社のように災害を想定したマニュアルを自社で整備している組織は多いと思いますが、想定外をどうするのか?

そこでカバーできないことも起こりうることを含ませておくことが重要ではないかと思います。

そのような観点からしても、インシデント・コマンド・システムのような考え方が組織として共有されていることはとても意義のあることだと思います。

昨今は、コロナウイルスなど新しい災害も増えてきている中で、その重要性は増してくるのではないかと思います。

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